国の責任を認めた泉南アスベスト最高裁判決 【弁護士 鹿島 裕輔】

2014年10月9日、最高裁は司法の最終判断としてアスベスト被害について国の責任を明確に認める判断を示しました。この最高裁の判断は、首都圏建設アスベスト訴訟をはじめとする全国6か所で闘われている建設アスベスト訴訟の勝利に向けて、極めて強い追い風になります。

1 泉南アスベスト訴訟の概要

泉南アスベスト訴訟とは、大阪府泉南市と阪南市(一部、岸和田市)のアスベスト紡織工場で働いていた元従業員やその家族、工場周辺に住んでいた住民、工場に出入りしていた運送業者の従業員が、アスベスト関連疾患を発症した責任が国にあるとして損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した事件です。

2 泉南アスベスト最高裁判決の意義

⑴ 最高裁が初めてアスベスト被害について国の責任を認めたこと

まず、何よりも泉南アスベスト最高裁判決の最も大きな意義は、最高裁が初めてアスベスト被害について国の責任を明確に認めたことです。これまで、地裁、高裁で国の責任を認めた判決はいくつかありましたが、最高裁が国の責任を認めたのは泉南アスベスト判決が初めてです。

そして、最高裁は、産業の発展ではなく、国民の生命・健康こそが至高の価値であり、国は生命・健康被害を防止するために、適時にかつ適切に規制権限を行使する義務があったことを明確に認めました。

具体的には、国は、石綿原料から糸、布を作る過程で石綿粉じんが大量に発生する石綿紡織業における石綿被害の深刻さを知りながら、産業発展を優先し、局所排気装置(有毒ガスや粉塵などが室内に拡散する前に、発生源のそばに局所的な吸引気流を設けて外に排気する装置)の設置の義務付けという有効な対策を怠った国の責任を断罪しました。

⑵ アスベスト被害について国に重い責任が認められたこと

最高裁は、国の責任の範囲が全損害の2分の1であるとした第2陣高裁判決を是認しました。首都圏建設アスベスト第1陣東京地裁判決において、国の責任が3分の1であったことからすると、泉南アスベスト最高裁判決は国の責任の範囲を重くみる先例となるでしょう。

さらに、基準慰謝料額を増額するとともに、喫煙歴等による慰謝料の減額事由を認めなかった点で国に重い責任が認められたといえます。

⑶ 国賠訴訟の保護対象が広がったこと

最高裁は、第2陣高裁判決が石綿工場の出入り業者について保護対象になるかについて、「石綿工場の労働者の他、職務上、石綿工場に一定期間滞在することが必要であることにより工場の粉じん被害を受ける可能性のある者も保護対象に含まれる」とした判断を是認しました。この判断は、国家賠償における救済対象を広げるものであるとともに、建設アスベスト訴訟の一人親方等の判断にも影響すると思われます。

3 泉南アスベスト最高裁判決の問題点

⑴ 審理対象からの排除

本件最高裁判決には、近隣の曝露者、家族曝露者について最高裁における審理の対象から外したという問題があります。これは、泉南地域では零細の石綿紡織工場が集中立地し、事業者も労働者も家族も石綿粉じんにまみれて働き、工場外に石綿粉じんが大量に飛散していた実態を見ないものであって、極めて問題です。

⑵ 防じんマスクの使用及び特別安全教育の実施を事業者に義務付けなかったことの違法を認めなかったこと

最高裁は、国が防じんマスクの使用及び特別安全教育の実施を事業者に義務付けなかったことの違法を認めませんでした。この点について、最高裁は「石綿工場における粉じん対策としては、局所排気装置等による粉じんの発散防止装置が第一次的な方策であり、防じんマスクは補助的手段にすぎない」と判示しています。

しかし、この部分は、建設アスベスト訴訟に直接の影響を及ぼすものではないと考えられます。なぜなら、建設作業では、局所排気装置による効果的な粉じん対策が困難であり、防じんマスクの使用が有効な防じん対策であったからです。そのため、かかる規制の不備は、本件最高裁判決の立場からしても違法となり得ます。

4 以上の泉南最高裁判決を武器に、今後、建設アスベスト問題における大きな世論を構築し、全面解決を図っていく次第であります。

                                                               以上