育児・介護に関する職場での嫌がらせについて 【弁護士 高木 一昌】

 「パタハラ(パタニティー・ハラスメント)」という言葉をご存じですか。「パワハラ(パワー・ハラスメント)」や「セクハラ(セクシャル・ハラスメント)」は聞いたことがあるけど、パタハラなんて知らないぞ、という方が多いのではないでしょうか。

 パタニティーとは「父性」という意味で、パタニティー・ハラスメントとは、父親とはこうあるべきだという固定観念に基づいて、部下に育児休暇を取得させないよう嫌がらせをする行為を言います(定義が一義的に確立している訳ではありませんが、一般にこのように理解されています)。マタハラ(マタニティ・ハラスメント)の男性版といったところでしょうか。

 さて、育児休業に関しては、育児介護休業法(正確には「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」と言います。長い・・・)10条に、「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」という規定が置かれています。

 この条文における「労働者」には、当然のことながら男性労働者も含まれます。したがって、以下のようなやりとりが仮にあれば、上司の対応は育児介護休業法10条に反し、違法ということになります。

 

 男性「すいません。家庭の事情で育児休暇をとりたいんですけど」

 

 上司「はぁ!?何で男のお前が育児休暇とろうとしてる訳?その程度のモチベーションでしか仕事する気がないならもう明日から来なくていいぞ。クビだ!」

 

 まぁ上記の例は、ちょっと極端すぎるかも知れませんが、これに近いやりとりは、まだまだ多くの企業であり得るのではないでしょうか。

 実際に裁判になったケースでは、3ヶ月の育休を取得した看護師が、勤務先の病院から、①昇級を認められず、また、②昇格試験の受験資格も認められない、という扱いを受けたというものがありました。この裁判では、第一審では、②のみが違法とされ、第二審では、①と②の両方が違法とされ、病院側の上告棄却により第二審の裁判が確定しております。

 第二審で是正されているとはいえ、第一審が①を違法としなかったことは大いに問題があります。まだまだパタハラに対する社会の理解が不十分であるが故、このような誤った判決が出されてしまうのでしょう。

 出産・育児がしやすい社会でなければ、ますます少子化が加速してしまいます。少子化の加速が、日本全体の将来にとって大きなマイナスであることは言うまでもありません。企業には、パタハラ・マタハラのない職場作りに大いに取り組んで貰いたいものです。