久しぶりに事務所復帰 【弁護士 中西 一裕】

 2011年1月から2013年5月まで日本弁護士連合会の役員(事務次長)を勤めた後、その年の9月から今年の7月15日まで日弁連からの出向で任期付き公務員として法科大学院や司法試験、司法修習といった法曹養成制度の改善・改革作業に従事していました。4年半ぶりの事務所復帰となります。
 日弁連では弁護士業務をいったん離れ、弁護士および弁護会のあり方について幅広い視野で考えることができ、さらに任期付き公務員の間は、弁護士および弁護士会が外部(特に官公庁)からどう見られているのかを学ぶよい機会だったと思います。地域事務所のモットーは、"Think globally, Act locally"(グローバルな視野で考え、地域で行動する)だと思いますが、この4年半の経験を今後の弁護士活動に生かせればと思います。

 日弁連や各弁護士会の活動は弁護士の団体なので我々弁護士にはなじみがあり、一般にも日弁連や各弁護士会のHPで日々の活動や会長声明等が公表されていまが、中央省庁の公務員はいわば政治家の黒子で、国会の委員会質問で大臣に代わって答弁する人くらいのイメージかもしれません。私自身、公務員として役所内で仕事するのは全く初めてで、見ること聞くこと驚くことがたくさんでした。そこで、皆さんの関心の高いと思われる国会審議の準備について、守秘義務に反しない程度で、少し紹介します。

・政府提出法案と議員立法
 ほとんどの法案は政府提出法案で、内閣が提出するので「閣法」(かくほう)と呼ばれます。これは関係省庁で法案を準備し、与党の政務調査会の審議と内閣法制局のチェックを受け、閣議決定を経て国会に上程されます。国会質疑は担当する省庁が大臣・副大臣らの提案理由説明と答弁をサポートし、場合によっては事務方の官僚が直接答弁に立ちます。議員立法の場合はこのような政府内の手続がなく、したがって国会質疑も提案した議員自らが提案理由説明と答弁を行います。

・衆参の委員会質疑の準備
 提出された法案に対する委員会質疑はいわば国会の華ですが、質問事項は原則として1日以上前に通告するルールとなっています。広範囲で多岐にわたる質問事項をその場で聞いて答えるのは事実上不可能で、結局は次回に持ち越しとなってしまうので、当日の審議を充実したものにするには事前通告がやはり必要です。
 ところで、この1日以上前の通告ルールですが、実際にはかなり形骸化していて、多くの議員は質問前日の夕方になって通告してきます。ひどい場合は簡単な質問項目のみで、詳細な質問事項は夜遅くなってからなどという場合もあります。これは役所にとっては大変つらいことで、前日夕方から答弁の準備を始めれば、自ずと深夜まで、多くは徹夜の作業となってしまいます。役所の勤務時間を理由に答弁を次回にすればよいのにとも思いますが、そこは国民の代表である国会議員の立場を尊重してか、または官僚のプライドか、あるいはその両方の理由により、当然のように深夜・徹夜の作業を黙々としています。まさに、「霞ヶ関の不夜城」です。
 もちろんこうした作業は残業を増加し、男女共同参画やワークライフバランスの趣旨に著しく反すると批判されていますが、全議員が1日前の事前通告ルールを徹底遵守するか、役所側が深夜徹夜の作業を断固拒否するかしないと改まらないでしょう。

・想定問答づくり
 議員から質問通告がされた場合、まず担当者が議員のところに行って質問の趣旨を確認します。その際、担当者の説明と資料の出来不出来で、議員が納得して質問事項を減らす場合と、逆に、さらに疑問を抱かれて質問の数を増やしてしまう場合があります。こうして質問事項が決まれば、それを担当部署や、他省庁にまたがる質問の場合は他省庁にも割り振ります。ここでどの部署や省庁が答弁準備を担当するかで、当日の作業量がかなり変わってきます。こうして割り振られた質問事項について担当者が答弁案と想定問答案を作るわけですが、この原案を上司の決裁を受け、他省庁が関係している質問事項ではその意見も聞く必要があります。こうして省庁内や省庁間で何度か調整し、ようやく答弁案と想定問答案ができあがる頃には深夜になっているというわけです。

・「空振り」に終わることもある 
 委員会当日は、随行者以外は役所でテレビの国会中継を見て質疑をチェックしますが、想定問答通りなら上出来、想定外の問答に発展すれば宿題が残ります。時には徹夜作業で作った問答が議員の質問時間切れでカットされることもあり、そういうときは担当者のため息が聞こえます。

・政党による準備の差はない
 役所の立場からすれば、答弁が円滑に行われるかどうかが重要なので、議員の質問には与野党関係なく十分準備します。むしろ、政府を追及する立場の野党議員の質問への対応の方が、入念かつ慎重な準備をしていると言ってよいでしょう。よく準備して筋の通った質問をする議員は、当然ながら役所も一目置いて対応する存在となります。

 このように役所側から見ても、国会議員の存在とその活動ぶりは政治のあり方に大きな役割を果たしていることがわかると思います。様々な運動で議員に働きかける際は、こうした役所の対応も念頭に置いて質問の準備を十分サポートすることが重要です。