技能実習生除染・被ばく労働事件についてのご報告 【弁護士 岩本 拓也】

 技能実習計画外の除染作業に従事されられた技能実習生の損害賠償請求事件において、勝訴的和解をしましたので、報告をいたします。

1 事案の概要

 原告らは、2015年7月頃、在留資格「技能実習」を取得し、鉄筋施工又は型枠施工の技能を習得するために、いわゆる技能実習生として本邦に入国したベトナム人の3名である。原告らは、被告において、①技能実習計画外の就労であることが明らかであるにも関わらず、これに反して、約2年間にわたり、福島県郡山市又は本宮市において除染作業に従事させられていた。これは、技能実習計画に定められた対象職種・作業以外の業務に従事させたとして、被告の対象職種・作業遵守義務違反にあたる。また、原告らは、②作業当時、避難準備解除指定区域であった福島県浪江町において、法令上求められる安全教育を施されずに業務に従事させられていた可能性があった。本件は、原告らが被告に対して、不法行為又は安全配慮義務違反を理由として、2019年9月に訴訟を提起し、損害賠償を求めたものである。請求の内訳は、除染作業員と技能実習生である原告らとの賃金差額、除染作業に従事させたことに対しての慰謝料、逸失利益等である。

2 訴訟の経過と裁判所からの和解勧告について

 本件においては、訴訟の序盤から、裁判所より、原告と被告の双方に対して、来日の経緯、被告の業務概要、被告の技能実習生の受入実績といった背景事情も含めた詳細な求釈明があり、裁判所が本事件に大きな関心を寄せていることが窺えた。訴訟においては、本件に類似する裁判例として、富山地方裁判所平成25年7月17日判決・労働法律旬報1806号62頁(判決においては、在留資格「技能実習」が技能実習生の保護のために創設されたことを指摘した上で、上陸基準省令及び技能実習生の入国・在留管理の指針の定めを個別具体的に検討し、技能実習生の人権を保護することを目的としているとして、保護法規に当たる旨を判示していた。)を引用して、関係法令の仕組みを解釈した上で、対象職種・作業義務違反は、単なる行政上の規定にとどまらず、個々の技能実習生の人権を守ることに向けられた義務と解するのが相当との主張をした。今回の一番の争点であった差額賃金の請求については、労働契約法20条と労働基準法3条(国籍差別)を根拠とした。また、ハローワークに行政文書開示請求をし、求人票を取得して証拠として提出をして、除染作業員の賃金の立証をした。求人票については、取得後にすぐに証拠として提出することはせず、被告より、原告らが従事した除染業務は単純な軽作業であるとの主張が出された後に、原告らが従事していた仕事と同内容で日給8000円~10000円で作業員を募集する内容の被告の求人票を証拠として提出し、裁判所により印象が残るように工夫をした。

 期日を重ね、原告被告から一通りの主張立証がなされた後、2020年8月6日に、裁判所より、差額賃金の請求と慰謝料を認める和解案が示された上で、和解勧告がなされた。その理由としては、除染作業は技能実習制度の趣旨目的に沿わず、制度の枠組みの中で行わせることができないものであり、これは本人が除染作業への従事を希望したとしても同様であること。そのため、少なくとも相応する賃金を支払うことが求められること。慰謝料については、技能修得の機会を得る利益を損なうことになったことを理由とするものであった。被告は、除染作業について、原告らの強い希望によるものと主張していたが、裁判所があえて「技能実習生が、除染作業への従事を希望したとしても同様」と記載していることからして、判決に至ったとしても、差額賃金の請求が認容された可能性は高かったといえる。

3 本和解の意義

 本件は、裁判所の和解勧告を受けて、2020年10月26日に和解が成立した。2020年8月6日の和解勧告にて、裁判所の考え方を記載した和解案は、和解調書に添付されることとなった。除染作業について、「一般的に海外で行われる業務ではないことに加え、技能習得とは直接関係のない除染電離則に基づく特別の教育を受けること等が必要である点において」とわざわざ言及し、さらに「技能実習制度の趣旨目的に沿わないものである」ということを書面化したことに、極めて大きな意義があるものと考える。技能実習制度は、制度の趣旨目的に沿って運用されなければならない(しかも、前述の通り、本人が除染作業を希望したかは無関係)ところ、これに反する運用が横行している現状に一石を投じる判断であるといえよう。

 浪江町での作業については、慰謝料が認められなかった。原告らとしては、除染電離則の適用があることを前提に、労働安全衛生法違反を主張していたが、(除染電離則の適用があることの立証を尽くすことができず)これが認められなかったことは残念である。

 当方らとしても、新型コロナウイルス感染症拡大の影響下において、ベトナムにいる原告らが証人尋問のために本邦に入国することが困難であることに鑑み、早期和解による解決を選択した。

4 最後に

 本件における弁護団は、指宿昭一弁護士(暁法律事務所)、中村優介弁護士(江東総合法律事務所)、当職であった。法的構成が難しい事案であったが、弁護団で議論を重ねた結果、説得的な主張を展開することができ、結果として意義のある和解をすることができた。ベトナムにいる原告らとは、FACE BOOKのメッセンジャーを使って、打ち合わせをしていたが、きちんとした説明を受けないままに除染作業に従事させられた話を聞いて、技能実習制度が本来の制度趣旨からははずれて、都合の良いように利用されていることを強く実感した。本事件が起こった原因は、技能実習制度自体の問題にあるといえるので、本事件を技能実習制度の廃止への契機にしたいと考えている。