「相続法改正」パート4 【弁護士 大江 京子】

自筆証書遺言制度に関する見直し

第1 自筆証書の方式緩和(968条2項)

 

1 改正の内容と改正理由(改正法968条2項、3項)

 自筆証書遺言は、遺言者の意思の正確さを確認するために厳格な要式行為とされ、目録も含めて遺言の全文、日付及び氏名を自書し、押印することが必要でした(旧法968条)。

 この厳格さのために、自筆証書遺言の活用が阻害されていると考えられた結果、目録については自書の必要がなくなりました。したがって、目録については、パソコンの使用や他人による代筆が認められるようになり、通帳のコピーや登記事項証明書を目録として使用することも可能となりました。但し、目録の頁ごとに、遺言者の署名と押印が必要です。また、自書でない財産目録を訂正する場合の方式は従前と変わらないとされており、「遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ。その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない」(968条3項)ので、注意が必要です。

 遺言の方式緩和については、2019年1月13日から施行されています。 

 

2 制度改正のメリットと注意点

 財産が多い場合や、相続人や受贈者が多い場合、分割方法など細かに指定する場合には、自筆証書遺言は不向きであり、できれば公証証書遺言を作成することをお勧めします。自筆証書遺言の厳格な要式に違反していると判断されれば、遺言自体が無効になってしまうなど紛争のリスクが高いという難点があるからです。

 今回の改正で、目録については、自書でなくてもよくなったため、多少便利になったともいえますが、その場合も目録の訂正は要注意です。単純にパソコンで打ち直した訂正後の目録に差し替えるだけでは、968条3項の要求する要式を満たさないとされる可能性があります。目録を訂正する場合は、本文も新たに書き直して、新たな遺言書として作成するほうが無難でしょう。

 

第2 法務局における自筆証書遺言の保管制度

1 新法の制定

 法務局における遺言書の保管等に関する法律が制定され、2020年7月10日から施行されます。

 

2 制度の内容

 自筆証書遺言については、遺言者等が私的に保管する以外になく、このため、遺言書作成後の紛失や隠匿・変造のおそれがあるほか、相続人らが、遺言書の存在を知らずに遺産分割を行い、のちに自筆証書遺言が発見されるなどの事態も生じかねず、かえって紛争の種になるということがありました。

 そこで、自筆書証遺言を確実に保管し、相続人らが相続開始後にその存在を法務局に問い合わせて遺言の存在を把握できるよう自筆証書遺言の公的保管制度が新設されました。

 また、この制度により保管された遺言書は、自筆証書遺言に必要とされていた検認の手続きが不要となりました。

 

3 申請と撤回

 自筆証書の保管は、遺言者自らが、管轄の法務局に出向き申請しなければなりません。

 また、遺言者はいつでも、保管の申請を撤回することができますが、その場合も、遺言者自らが、法務局に出向く必要があります。