「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟 国と東京電力の責任を認め,被害救済を広げる勝訴判決!【弁護士 塚本 和也】

遅くなってしまいましたが,これまでコラムで紹介してきました,生業訴訟の福島地裁判決のご報告です。

 

第1 福島原発事故被害と原発政策の現状

 福島原発事故から7年が経った今でも,避難を余儀なくされている方が少なくとも4万人以上おり、これまで築き上げてきた住居、仕事、人間関係などの「ふるさと」を奪われたままでいます。また,福島周辺に滞在している方々も不安を感じながら日々生活しています。さらに,事故の収束のめどは立っていませんし,大量の放射性廃棄物の処理方法も決まっていません。

 しかし,国と東京電力は,法的責任を認めておらず,東京電力による無過失責任を前提とした賠償も不十分です。それにもかかわらず、避難指示解除と合わせた賠償や支援の打切り、森林除染の見送り,原発再稼働や輸出を進めようとしています。昨年12月の広島高裁の伊方原発運転差止決定は意義あるものですが,高浜原発と川内原発は運転差止が取消されたり認められなかったりしたことで再稼働されています。また,昨年12月には東京電力の原発としては初めて,柏崎刈羽原発が新規制基準に基づく安全審査に合格しました。さらに,今年7月,政府は全国の原発の再稼働を前提とするエネルギー基本計画を閣議決定しました。

 このような状況の中で,全国で1万2000人を超える被害者の方々が国と東京電力の責任を追及する民事訴訟を各地で起こしており,昨年から判決を迎え始めています。昨年3月の前橋地裁判決は国の責任を認めましたが,9月の千葉地裁判決は津波の予見可能性は認めたものの結果回避義務と可能性を否定し,国の責任を認めない不当判決でした。

 

第1 「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟

1 判決

(1)旗出し

 生業訴訟は,昨年10月10日,判決言渡し期日を迎えました。私は多くの原告団,弁護団や支援者の方々とともに判決前集会及びデモ行進を終え,裁判所の前で旗出しを待っていました。なお,奇しくも総選挙公示日のこの日,安倍首相は福島市で第一声を行いましたが,支持者だけを集めたもので,原発のことは一切語らず,当然私たちのところへは来ませんでした。14時すぎ,福島の弁護士3人が裁判所から出てきました。かたい表情だったため,少し不安になりました。しかし,大勢のマスコミに囲まれた台の上に立った3人はそれぞれ「勝訴」,「国と東電を断罪」,「被害救済広げる」という旗を広げました。その瞬間,「うおお!勝ったぞー!」など歓喜の叫びが上がりました。私も昨年の報告集において紹介した,楢葉町から葛飾区に避難されている原告のご夫婦と握手をして喜びました。

 

(2)国と東京電力の法的責任を認める

 判決は,「平成14年7月31日の『長期評価』に基づき,福島第一原発1~4号機敷地南側にO.P.+15.7mの津波が到来することを予見することが可能であり,(建屋等の水密化などを実施する)技術基準適合命令を発することが可能であったにもかかわらずこれを行わなかったものであり,この津波対策義務に関する規制権限の不行使は,本件の具体的事情の下において,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いていたと認められ」るとして,国の責任を認めました。特に,国が設置した機関が発表したにもかかわらず国がその信用性を争っていた,津波の予見可能性の基礎となる「長期評価」について,約36ページにわたって詳細に検討し,「研究会での議論を経て,専門的研究者の間で正当な見解であると是認された,『規制権限の行使を義務付ける程度に客観的かつ合理的根拠を有する知見』であり,その信頼性を疑うべき事情は存在しなかった」と論じました。

 判決は,東京電力についても過失を認め,「万が一にも原子力事故を引き起こすことのないよう,原子力発電所の安全性を最優先に考えなければならない原子力事業者に求められる高度の予見義務,回避義務を怠ったものとして,強い非難に値する。」と述べました。

 

(3)被害救済を広げる

 判決は,「人は,社会通念上受忍すべき限度を超えた放射性物質による居住地の汚染によって平穏な生活を妨げられない利益を有している」,「ここで故なく妨げられない平穏な生活には,生活の本拠において生まれ,育ち,職業を選択して生業を営み,家族,生活環境,地域コミュニティとの関わりにおいて人格を形成し,幸福を追求していくという,人の全人格的な生活(原告らのいう『日常の幸福追求による自己実現』)が広く含まれる」と,原告らの主張した権利利益を認定しました。また,科学的知見や社会心理学的知見といった「低線量被爆に関する知見等」や,水,食品,海,及び教育施設の汚染といった「社会的事実等」について,原告らの主張した事実を認定しました。その上で,国と東京電力が定めた指針等による賠償では不十分だとして,福島市,郡山市,いわき市などの自主的避難等対象地域などに住んでいた方の賠償額を上乗せし,賠償されていなかった白河市などの県南地域や茨城県の一部に住んでいた方の賠償も認めました。

 

(4)原状回復について

 原状回復請求については,「被告らに求める作為の内容が特定されていないものであって,不適法である」として却下されました。しかし,判決はこれだけで終わらず,「原告らの請求は,原告らの切実な思いに基づく請求であって,心情的には理解できる」という異例といえる文が加えられていました。裁判所に原告らの思いが響いていたことがわかります。もちろん私たちは控訴審で認められるべきだと訴えていきますが,除染技術の研究など,政治的な解決も必要となる分野であると思います。

 

(5)判決の評価と課題

 以上のとおり,勝訴判決と言える判決を得ることができました。国の責任を明確に認めたとともに,被害については原告らに共通する損害として認定されたものですので,被害者と認められた住民は150万人を超えます。今後の原発政策に影響を与える判決だといえます。

 一方,避難指示が出た地域に住んでいた方々への追加賠償はほぼ認められず,ふるさと喪失慰謝料も認められませんでした。また,上乗せされた金額も地域も不十分といえます。いわば各論といえる損害認定の部分で結局,放射線量が国や東電が主張した年間20ミリシーベルトではないものの,年間5ミリシーベルトを超えているかどうかという基準でほぼ線引きされてしまい,代表原告らが訴えた被害を共通の被害とみてもらえなかったことが原因かと思われます。また,国の賠償責任を東京電力の2分の1としています。これらの点については,控訴審で徹底的に主張立証を尽くし,さらに満足する判決を勝ち取りたいと思います。

 

第3 法廷外の取り組み

 法廷外の取り組みとして,昨年は公正な判決を求める署名集めに取り組みました。当事務所の連絡会のみなさまにもご協力いただいたおかげで,23万筆を超える署名が集まりました。国の責任を認めるというのは裁判官にとって勇気がいることなので,これも判決を後押ししたと思います。

 判決言渡し時には,福島地裁前だけでなく,東京電力本社前や沖縄でも旗出しを行い,支援者へのご報告と東京電力に対する訴えを行いました。判決後には,各政党や民主団体などに判決内容の報告と政策要求を行いました。

 今年2月には東京地裁,3月には京都地裁,東京地裁,福島地裁いわき支部で原発事故被害者の判決が出され,国を被告とする訴訟ではいずれも国の責任が認められ,中間指針等を超える賠償も認められました。私たちはこれらの判決後,全国の原告団,弁護団,支援者の方々とともに国や東京電力に脱原発とともに完全賠償をするよう交渉を続けています。

 また,私は今年4月に墨田の方々や司法修習生14名と福島浜通りのフィールドワーク,8月に墨田の方々15名と広島での原水爆禁止世界大会に参加し,原子力による犠牲を2度と繰り返さない決意を新たにしました。これらについてはまたコラムでご紹介します。

 さらに,東部地域においても,生業訴訟の意義を伝える学習会などを行いたいと思っています。仙台高裁での期日や福島地裁での第2陣期日の傍聴や福島の現地視察を行ってくれる方も募集しています。

 これらを通じて,原状回復や全体救済、脱原発を進めたいと思っています。今後ともあたたかいご支援をよろしくお願い申し上げます。

 

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