現在、参議院で審議されているいわゆる「安全保障法制」には、多くの新しい法律用語が出てきます。これらの用語を分類すると、「存立危機事態」「重要影響事態」「国際平和共同対処事態」などの日本を取り巻く国際平和環境の局面・事態を表現する言葉と、「後方支援活動」「捜索救助活動」「協力支援活動」などの自衛隊等が行う活動を表現する言葉の二つに大きく分類できると思います。「安全保障法制」は、自衛隊の活動範囲を(特に海外で)大きく拡大すること、つまり、今までは活動ができなかった局面で活動をしたり、今まではできなかった内容の活動を行うことができるようにすることを企図したものですから、これら新しい局面や活動について、新しい名前がつけられたのです。
ところで、「名は体を現す」という言葉があります。「物の名前はその実態をよく表現している」という意味ですが、当然物に新しい名前をつける時も、そうあるべきでしょうし、新しい法律用語を作る際も、そうあるべきです。
では、「安全保障法制」に出てくる「新しい名前」はそうなっているでしょうか?残念ながら私には、そうなっていないように思えます。
その一例が「捜索救助活動」です。「捜索救助活動」とは、「重要影響事態(法案には『そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態』と表現されています。)」と「国際平和共同対処事態(法案には『国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの』と表現されています。)の際に、自衛隊が海外で行うことが予定されている活動ですが、果たして自衛隊が海外で行う「捜索救助活動」とはどのような活動でしょうか。「言葉のイメージ」としては、「海外で戦闘に巻き込まれた日本人・民間人を捜索して救助する活動」というのが、私たちが持つイメージではないでしょうか?
しかしながら、「捜索救助活動」の実態は、全く異なります。端的に表現すれば、「捜索救助活動」とは、「戦闘で負傷した米軍等の兵士を自衛隊が前線(ただし、現に戦闘行為が行われている現場は除く)まで行って捜索・救助し、安全な場所まで輸送する」活動のことです。(法案には「戦闘行為によって遭難した戦闘参加者について、その捜索又は救助を行う活動(救助した者の輸送を含む。)」と表現されています。)
つまり、米軍等の他国軍の負傷兵を救出して、再び戦闘現場に送り出す手助けを自衛隊が行うことがめざされているのです。「捜索救助活動」という言葉のイメージからはかけ離れた、危険で「血なまぐさい」活動ではないでしょうか。当然、戦闘の相手方からみれば、「捜索救助活動」は「敵(米軍等)の戦闘を手助けする活動」であり、捜索救助活動に従事する自衛隊が戦闘の相手方に攻撃される危険性も高いと言えます。
「安全保障法制」はとても複雑で、私たち法律家にとっても、正直わかりづらいものです。また、国会における審議を通じても、この法案で日本がどのような活動ができるようになるのか、ならないのかは、全く明らかになっていません。
私たちは、政府が新しく作った「名前」のイメージに惑わされることなく、「安全保障法制」によって、具体的に日本がどのような局面で、どのような活動を行うことになるのか、それが本当に日本の今後の平和にとって役立つことなのか、見極めなければならないと思っています。