法律上の定義とマスコミ用語 【弁護士 高木 一昌】

 新聞の事件報道などでは「◯◯被告に対して、懲役◯年の判決が言い渡されました」という表現をよく目にします。

 

 しかし,刑事法上は,「被告」ではなく,「被告人」が正しい表現なんですよね。ですので,我々法律実務家は、刑事手続において「被告」という言葉は使いません。他方,民事法上は、「被告」という言葉を使います。紛らわしいですね。

 

 つまり、法律上は、以下のような使い分けになっているのです。

 

・民事法上、訴えられた人=「被告」(ちなみに訴えた人は「原告」)

・刑事法上、犯罪の嫌疑を受けて訴追された人=「被告人」(ちなみに訴追したのは「検察官」)

 

 これに対して、マスコミは、刑事法上の「被告人」のことを「被告」と表現する一方で,民事法上の「被告」のことは,単に当事者名を表記することが多く、「◯◯被告」という表現はあまり使われないようです。何か理由があるのでしょうか。

 

 一般の方にとっては、マスコミ用語の方がなじみがあるので,「被告」=犯罪の嫌疑を受けて訴追された人、というイメージが強いみたいですね。実際、法律相談を受けていると、民事で訴えられた人が「“被告”扱いされる筋合いはない」とご立腹されていることもままあります。

 

 法律の定義のとおりに報道しなければならない訳ではないので、マスコミの用法が“間違っている”というつもりはありませんが、法律用語どおりでないということは知っておいて損はないのではないでしょうか。