介護労働現場がブラック化? 【弁護士 大江 京子】

 介護保険制度は、超高齢社会を支えるために2000年にスタートした社会保険制度です。高齢者が権利として必要な介護を受けるためには、介護保険制度を担う労働者が欠かせません。介護労働者の数は、介護保険制度がスタートした2000年の約55万人から、2011年には140万人近くにまで増えましたが、近年は入職者数に近い退職者がいるため、介護労働者は増えておらず、現状のままでは、2025年に250万人という、厚生労働省が必要と推計する介護労働者の数を実現することは到底不可能です。

 介護労働者が離職する大きな要因は、低賃金と長時間労働という厳しい労働環境です。

 私も共同代表となって、弁護士グループと市民団体で、一昨年10月と昨年2月、「介護労働ホットライン」を開設しました。そこには全国から、介護現場に独特な形の非正規雇用、低賃金、長時間労働、サービス残業などの実態を訴える声が寄せられ、労働法規に抵触する内容の相談もありました。社会保障制度を担い、本来であればやりがいのある介護労働の現場がブラック化し、ひいては、必要な介護が提供されず、提供される介護の質が低下する事態になりつつある現状を危惧しています。このような「ブラックな労働環境」を介護保険という公的制度で出現させていることは、介護現場のみならず他の公・民の労働環境全体に影響を与える大問題です。(クロワッサンの1月10日号に、介護労働ホットンラインの記事が載っていますのでご参照下さい。)

 財務省は来年度改定する介護報酬の6パーセント削減を打ち出し、厚生労働省は、人手不足解消のために介護資格要件を緩和する方針を打ち出しました。介護報酬の削減が実現されれば、賃金や労働環境は、ますます悪化して人材不足に拍車をかけることとなり、それを補うために介護資格要件を緩和すれば、介護の質の低下を招きかねず、ひいては介護保険制度の崩壊につながります。

 誰もが等しく年をとります。日本は、かつてどこの国も経験したことのない速度で高齢社会が進んでいます。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」(憲法25条1項)「国は、すべての生活部面において、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」(憲法25条2項)と憲法は保障しています。年をとっても、人間としての尊厳を守って生きていくことのできる社会を実現するために、まず、介護保険制度を支える介護労働従事者が、人間らしく働き生活できる権利を保障されることが不可欠ではないでしょうか。