ストップ!少年法「改正」案の国会提出 【弁護士 仲里 歌織】

 少年法改正問題、あまり馴染みのないテーマかもしれませんが、今、厳罰化等を内容とする少年法改正の動きがあります。2014年1月末から6月にかけての通常国会で提出されないか、とても心配な状況です。このテーマについて少し取り上げてみたいと思います。

 

1.少年法改正の動き

 2012年9月7日、法務大臣は、①検察官関与対象事件の拡大、②不定期刑及び無期緩和刑の引き上げ等、③国選付添人対象事件の拡大、を内容とする少年法改正案を法制審議会に諮問しました(諮問第95号)。2013年2月8日、法制審議会は、少年法部会の報告を踏まえ、諮問第95号の別紙要綱(一部事務局試案)の通りの少年法改正案を採択し、同日法務大臣に答申しました。法務省は、答申を受け第4次少年法改正案として2014年1月からの通常国会に提出の準備をしています。

 改正案のうち、①検察官関与対象事件の拡大、②不定期刑及び無期緩和刑の引き上げ等は、明らかに少年法の理念に反するものであり、多くの問題を含んでいます。

 

2.改正の概要

 ⑴ 検察官関与対象事件の拡大

 もともと少年法は、審判に検察官を出席させることを予定していませんでしたが、2000年に一定の場合には検察官が出席できるように少年法が改正されてしまいました。そのため、現行法では、「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件」及びそれ以外で「死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件」で、その非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認めるときは、検察官の出席を可能としています(少年法22条の2)。

 それが改正案では、「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件」において、裁判所が、その非行事実を認定するための審判の手続に検察官が関与する必要があると認める場合に、検察官の出席を可能とする内容になっています。

 2011年のデータをベースにすると、現行法では、観護措置決定を受けた少年の終局処分総数のうち約5.5%が検察官関与の対象になりうる事件です。これに対し改正案では、総数のうち、約82.8%が検察官関与の対象になりうる事件となります。改正すれば、あらゆる事件の審判に検察官が出席し得ることになります。

⑵ 厳罰化

 少年法では、更生の観点から刑に弾力性を持たせ、刑期の下限と上限を決めて言い渡す不定期刑というものがあります。現在、この不定期刑の上限が10年になっていますが、改正案では「15年」に引き上げるという内容になっています。

 また、上記引き上げとのバランスをとるために、無期刑で処断すべき場合の代替有期刑の上限も現行の15年から「20年」に引き上げ、無期緩和刑における仮釈放要件も現行の3年から「刑の3分の1」に引き上げるというのが改正案の内容です。

 

3.改正の問題点(事件を通して感じること)

 実際の事件を通して、今回の改正は少年の更生とは逆行するものだと感じます。

 ⑴ 検察官が関与すると何が問題なのか

=ある事件の審判を通して=

 責任を追及する立場の検察官が関与すると、少年が審判で自分の気持ちや考えたことを伝えることが難しくなるという指摘がありますが、少年が審判で自分の気持ちを伝えることがどれ程重要なのかを考えさせられた事件について少しだけ書きたいと思います。

 罪名等からすると厳しい処分が予想される事件でした。

 付添人としては、本人の気持ちと環境によって社会で十分にやり直せるし、本人の課題を乗り越えるためにも社会内での処遇が必要だと考え、環境調整と並行して審判までの間何度も面会を重ね、色々な問いかけを少年にしてきました。何時間も話をしたり、一人で考えてもらったりする中で、確実に少年の変化を感じましたし、その変化を裁判官に見て頂きたいと強く思いました。

 もともと自分の内面について語ること、考えたことを表現することを苦手としていた少年でしたが、審判では、自分がこれまで考えたことを裁判官に伝えることが大切だということ、審判で何を一番伝えたいか等を直前まで相談し、迎えた審判でした。

 審判当日、少年が緊張しているのが伝わってきましたが、たどたどしくも、しかし確実に、今まで自分が考えてきたこと、今回の事件について、被害者について、自分について、自分の環境について、今後について、一生懸命自分の言葉で話してくれました。裁判官からも少年が考えてきたこと・少年の姿勢を認めるような発言もある程、本当に、少年が全力で自分自身と向き合っていること(向き合ってきたこと)が伝わってくる審判でした。

 付添人としては審判結果には悔しい思いをしました。翌日少年に会いに行き、審判で裁判官が話していたことの説明をした上で、「抗告をすることもできるけれども、どうしますか」と、聞きました。

 すると、自分が考えてきたことは全部審判で伝えることができたので、抗告はしなくて大丈夫です。ここで頑張っていこうと思います。といった力強い言葉が返ってきました。 

 審判の場で少年が自分の言葉で自分の想いを語れるというのは、私達大人が考えている以上に、少年が自分自身と向き合い今後の新たな一歩を踏み出す上で重要なことなのだと感えさせられた事件でした。

 ⑵ 厳罰化をすれば、少年は更生するのか

  =ある事件の被害者とのやり取りを通して=

 ある事件で、少年の謝罪文を被害者の方に送ってもいいか付添人から連絡をしたことがありました。被害者の方から、今回の事件によって被害者がどれ程傷ついて自分自身を責めているか、事件後どのような生活をされているか等、教えて頂きました。その上で、少年についてはまだ若いのだからこの先、立ち直ってほしい、二度と非行に走らないでほしい、手紙を受け取ることがその少年の立ち直りにつながるなら、手紙を受け取りますという趣旨の言葉をおっしゃって頂きました。被害者の方の温かな言葉に心から頭の下がる思いがしました。お礼を伝えるとともに、この言葉をしっかりと伝えさせて頂く旨約束をしました。 

 今もまだ苦しんでいるのだということ、その具体的な内容を伝えた上で、それでも被害者の方は少年の更生につながるのならと手紙を受け取ると言って下さっていること、少年は黙ってじっと付添人の話を聞いてくれました。数日経って少年に会いに行くと、被害者の具体的な状況を聞いて、ショックを受けたこと、自分の行ったことへの後悔を語ってくれました。他方で、それでも立ち直ってほしいと思って下さっていることへの感謝と、決意を少年なりに語ってくれました。

 事件が終わってからも少年と手紙のやり取りが続きましたが、その手紙からは変わりたい、変わろうという決意がとても伝わってきました。自分のことを想ってくれる人がいるということ、自分が傷つけてしまった被害者の方が自分の立ち直りを願ってくれているということ、それは少年の決意の大きな支えになっているように思いました。

 少年が、心の底から変わりたい、変わろうと決意をするのは、厳しく罰せられるからではなく、自分の更生を願ってくれる温かなまなざしの中でなのだろうと考えさせられた事件でした。

 

 4.以上のように、実際の事件を通してみても、今回の改正は、少年の更生に逆行するように思います。他にも、今回の改正には「少年法の理念を損なう」、「冤罪の危険性が高い」、「立法事実が不十分」、「国選付添人制度の拡大と連動させる必然性がない」等が問題点としてあります。冤罪については、既に検察官の関与した事件で、検察官が抗告をしたために冤罪が晴れるまで4年半の歳月を要したケースも出ているため、深刻な問題です。

 少年法を改正することが少年の更生につながるのか、少年法を改正する必要性がどれ程あるのか、改正した場合の悪影響等、私達大人は慎重に考えるべきだと思います。

 検察官関与拡大、厳罰化を内容とする少年法改正案が、今国会に提出されることがないよう、皆様と一緒に反対の声を上げていければと思っています。