B型肝炎訴訟和解成立と今後の課題

弁護士 山添 健之

1 はじめに


 私がこの報告集にてB型肝炎訴訟のご報告をさせていただくのは、これで4年目になります。

昨年は、私たちB型肝炎訴訟原告団・弁護団にとって、「和解基本合意の成立」を果たすことができた、記念すべき一年となりました。


  「B型肝炎訴訟」とは、幼少期に受けた集団予防接種の際に、注射針・注射筒の使い回しがされたことにより、B型肝炎に感染してしまった患者さんの被害回復を求めて、国の責任を追及する訴訟です。


 平成20年以降、全国10ヵ所の裁判所で国の責任を追及する訴訟が提起され、全国の原告団、弁護団が一丸となって闘ってきました。私は、東京弁護団の一一員として、東京訴訟の提訴当初から活動してきました。


2 和解基本合意の成立


 一昨年の3月12目に、札幌地方裁判所において和解勧告がなされたにもかかわらず、国は和解に応じようとはしませんでした。私たちは、支複音の方々の力も借りて、一刻も早く被害者の方々の被害回復が行われるよう、街頭での宣伝活動、
厚生労働省前での座り込み、院内集会、国会議員要請等の運動を行いました。

 

 その結果、昨年1月11日には、札幌地方裁判所より和解基本合意案が提示され、
 

国はこの基本合意案を受け入れる意向を示しました。
 基本合意案の内容は、「無症候性キヤリアー」と言って、B型肝炎ウィルスに持続感染しているものの、肝炎・肝硬変・肝がんといった病態にしていない原告についての賠償が十分とはいえなかったり、肝炎発症後20年を経過した原告について、長年病気に苦しんできたにもかかわらず、「除斥期間」という民法上の規定を機械的に適用して、一律に賠償金額を切り下げる等、原告団にとって、決して満足できる内容ではありませんでした。

 

 しかしながら、原告団の中には、重い肝がんを発症し、医師から余命宣告をされている方もいます。実際、平成20年の提訴から、国による和解基本合意案受入の表明までの間に、10名以上の原告が、和解成立を持たずに亡くなっていました。


このような状況にあって、原告団としては、苦渋の決断として、

裁判所より示された和解基本合意案を受け入れることとしました。

3 国による謝罪と「特定B型肝炎特別措置法」の成立


 昨年6月28日、国は正式に責任を認めて、当時の菅直人首相が原告に対して直接謝罪し、原告に対する賠償金支払いに加えて、肝炎患者の治療・生活支援や患者等への偏見差別をなくすための各種施策などについて定めた「基本合意」が、国と原告団・弁護団との間で締結されました。また、12月9目には、同基本合意に基づき、「特定B型肝炎特別措置法」が臨時国会で成立しました。


4 和解基本合意は被害者救済の第一歩


 和解基本合意は、あくまで賠償の枠組みを定めたものであり、一人一人の原告が実際に賠償を受けるためには、裁判所による個別和解の成立が必要です。そのため、現在弁護団は、既提訴原告(現在、全国で2000名題)の個別和解の成立及び、新規提訴希望者の提訴に全力を注ぎ、一人でも多くの被害者が、速やかに被害回復を得られることを目指しています。


 また、特別措置法は、その付帯決議の中で、「差別・偏見をなくすための国民への広報・啓蒙」や、「肝炎ウイルス検査の勧奨、肝炎医療の提供体制の整備、肝炎医療に係る研究の推進、医療費助成等、全ての肝炎ウイルス感染者に対し、必要な恒久対策を引き続き講ずるよう努めるとともに、とりわけ肝硬変・肝がん患者に対する医療費助成を含む支援の在り方について検討を進める」ことを宣言しています。


 原告にとって、国から賠償金を得ることは、被害回復の一歩に過ぎません。賠償金を得ても、病気は治りませんし、偏見に基づく差別がなくなるわけではないからです。

また、日本は、諸外国に比べて、がん患者全体に占める肝がん患者の割合が多いといわれており、その原因に、予防接種による注射器の使い回しはもちろん、その他の医療行為(注射・輸血・血液製剤の投与等)における感染対策が極めて不十分であったことが指摘されています。


 そのため、私たちB型肝炎弁護団は、全てのB型肝炎患者が、安心して適切な医療を受けられ、社会において不当な差別・偏見を受けることがなくなるように、今後も、肝炎患者団体や、薬害(C型)肝炎原告回・弁護団と協力して、運動を進めていこうと考えています。