「新刊のご案内」で大江京子弁護士が紹介しているが、応援のレビューを書く。
本書の編集者には大江弁護士のほかに、私の学生時代以来の畏友南典男弁護士が名を連ねているが、両名とも憲法改正問題の最前線で活躍するエキスパートである。
出口の見えないウクライナ戦争、国際世論の非難を浴びながらも止めないイスラエルのガザ侵攻など、暗澹たる平和の危機が続いている。日本を取り巻く状況についても、中国や北朝鮮の軍事的脅威や「台湾有事」の想定の下に日米軍事一体化が進められている。
こうした内外の状況に対し、本書は戦後80年維持されてきた平和憲法の意義を考え、改正論議の争点について理解を深めようとするブックレットである。
本書の構成は、
第1章 そもそも憲法とは何か
第2章 改憲論議を読み解く
第3章 自衛隊を憲法に明記する?
第4章 国家緊急権を憲法に置く?
第5章 憲法と平和のこれからを構想する
の5章にテーマを分け、見開き2頁で28項目のQ&Aを立てて争点を解説している。
解説は弁護士や憲法学者ら各分野の専門家によるもので、さすがにポイントを要領よくまとめている。
例えば、「平和憲法」の意味(Q4)について、憲法制定時の歴史的背景と前文第2段の「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」との宣明にまず注意喚起し、9条で「戦争放棄・戦力不保持・交戦権否認を規定し、非戦・非軍事平和主義の立場を鮮明にし」、憲法全体で「国際協調主義、文民統制、軍法会議設置禁止など、国内外で非軍事平和主義を推進・徹底する内容も規定しています」と格調高く論じる。
また、争点である「自衛隊を憲法に明記してはいけないのですか」(Q12)では、自衛隊の保持を憲法9条に追加することで《「戦力の不保持」を定めた9条2項は、「自衛隊の保持」によって有名無実化することになります。・・・「必要な自衛の措置」を可能にした結果、「武力の行使」と「武力による威嚇」とを放棄した9条1項の意味も変わってしまいます》と、9条の空洞化を批判している。
さらに、「アジアの軍事的緊張の高まり」(Q27)については、《東アジアにおける「安全保障環境の変化」なるものは、アメリカを含むこの地域における「多国間」で生じているのであって、北朝鮮や中国が、特別に日本を「狙い撃ち」にする形で起きているものではありません》として、軍拡ではなく平和外交の推進こそが重要であるとの立場を示している。
短い解説文なのでさらに学習会等で理解を深めることが望ましいが、改憲問題の基礎知識として多くの人に読んでほしい。