「住民訴訟を提起しました(京成立石駅前再開発の件)」【弁護士 柏木 優孝】

 2024年3月、葛飾区の住民は、葛飾区長が京成立石駅北口の再開発事業に係る権利変換によって区に損害を生じさせたとして、住民監査請求を申し立てました。当事務所の加藤芳文弁護士、舩尾遼弁護士、岩本拓也弁護士、今嶌千晶弁護士と当職は同監査請求とそれに続く住民訴訟の弁護団として関わっておりますので、本件について報告いたします。

1 立石という町
 葛飾区京成立石駅北口周辺は、飲んべえの聖地と呼ばれる「呑んべ横丁」をはじめとして多くの飲み屋が営業しており、1,000円あればべろべろに酔える「せんべろ」の町として知られています。立石は、このような「せんべろ」の町として特徴と、昭和情緒が残る雰囲気も相まって、メディアでも多数取り上げられるなど活気のある町でした。

2 再開発による高層ビルの建築
 今般、葛飾区が地権者として加わっている市街地再開発組合は、京成立石駅北口の施行区域内にある既存建物を取り壊し、新たに高層ビルを建築する第一種市街地再開発事業を施行しました。事業計画では、京成立石駅北口周辺に、地上36階地下2階(高さ125メートル)の西棟と、地上13階地下3階(高さ75メートル)の東棟の二つの高層ビルを建築することとなっており、このうち、東棟の3階から13階に葛飾区役所が移転する予定です。
 なお、本件再開発事業は組合施行ですが、葛飾区は施行区域内の土地を取得し、大規模地権者として市街地再開発組合の中で大きな影響力を有しており、これまでに多額の補助金を支出するなど事実上葛飾区の主導で行われています。

3 監査請求の申し立て
 葛飾区は、2023年6月30日、本件再開発事業に係る権利変換(権利者の所有する土地や建物などの財産を新たに建設される再開発建物の床に置き換えること。)によって、東棟3階フロアを取得することになりました。
 ところが、本件権利変換計画では、東棟2階フロアの権利床(もとの地権者が、従前資産に代えて取得する再開発建物の床のこと。)の評価額が1平方メートルあたり45万2234円とされている一方で、葛飾区が権利変換によって取得する東棟3階フロアの権利床の評価額は1平方メートルあたり98万8215円とされていました。通常、商業ビルは、集客力のある低層階の方が高額であり、階があがるほど安くなりますが、葛飾区は、2階フロアの2倍以上の価格で3階フロアを取得しており、少なくとも、2階との差額(53万5981円)に3階の取得面積(1336.06平方メートル)を乗じた7億1610万2775円分の権利床を放棄し、区に損害を発生させました。
 この点、葛飾区は、葛飾区が取得する権利床の評価額が高い理由の一つとして、権利床の価格には内装や設備等に係る費用が含まれていると回答しています。しかし、本来であれば、内装や設備等は、入札等の方法によって適正な契約手続を経た上で備える必要があるところ、権利変換計画による内装や設備の取得は、地方自治法に違反するものと言わざるを得ません。
 その他にも、葛飾区は、権利変換処分に至るまで一度も条例や議会の議決を経ておらず、葛飾区長の一存で区の財産が処分されているなど、違法と考えられる点があります。
 本件再開発事業は、現在、既存建物の解体工事が行われていますが、資材の高騰や物価高等に加え、多くの現存建物にアスベストが含有していること、高層ビルの建築に支障となる基礎杭が確認されるなど、さらに工事期間が延びる見込みであり、それに伴い、事業費も増大する見込みです。
 そのため、葛飾区の住民237名は、葛飾区が、地権者として、本件再開発事業に係る権利変換計画に同意し、市街地再開発組合の権利変換計画の議決に賛成し、これを撤回することなく権利変換が行われたことが、地方自治法に違反するとして、葛飾区に対して、監査請求を申し立てました。
 なお、葛飾区監査委員は、2024年3月21日付で監査を行わない旨の決定をしたため、住民は同年4月11日、葛飾区長に損害賠償の請求をすることを葛飾区長に対して求める住民訴訟を東京地裁に提起しました。

4 最後に
 本件再開発事業は、葛飾区の税金が投入されないと成り立たない赤字事業と言われています。そのため、葛飾区は、本件再開発事業を成り立たせるため、高い価格で東棟4階から13階の保留床(もとの地権者が取得する権利床以外の再開発建物の床のこと。)を取得することが想定されます。本件住民訴訟は、権利変換によって区に損害を与えた葛飾区長の責任を追及するものですが、高い価格で保留床を取得することによって、さらに葛飾区の財産が不当に減少することを防ぐことも目的として提訴したものです。
 私どもは、区民の財産を不当に処分されることがないよう、弁護団として尽力していきたいと思います。