「相続法改正」パート2 【弁護士 大江 京子】

第3 配偶者(長期)居住権(改正法1028条~1036条)

 

1 制度の概要

 前号のコラムで説明した配偶者短期居住権は、少なくとも6か月間は、自宅を明け渡す必要がないという最低限度且つ暫定的な配偶者居住権保護の制度でしたが、次にご紹介する「配偶者居住権制度」(長期)は、永続的な配偶者の居住権保護を認めるものです。

 簡単に言うと、居住建物を所有権と居住権に分けて別々に相続することを認める制度といえます。なお、配偶者居住権の性質は法定の債権とされています。債権という点では賃借権と同じですが、無償ですので、その性質は使用貸借に近いと言えます。但し、原則終身の権利で、登記ができて第三者にも対抗できるなど、使用貸借よりも保護が厚くなっています。

 従来の法制度では、居住建物(敷地権を含む)を相続するということは所有権を取得するということでした。

 したがって、居住建物(敷地権を含む)の価値が仮に4000万円で、そのほかの遺産として預金が2000万円で、夫が亡くなり、相続人が妻と子供2人の場合を考えます。

 遺産全体で6000万円、妻の相続分3000万、子供は各1500万の相続分となります。この場合、妻が自宅に住み続けたいと考えれば、これまでであれば、自宅建物を相続して代償金として1000万を用意して子供ども2名に500万円ずつ支払う必要がありました。1000万を用意できなければ、妻は自宅建物を相続できません。仮に1000万円を用意できても、それでは生活費に不足が生じることも考えられます。

 新設された配偶者居住権(長期)は、このように自宅建物以外に遺産がないか、あっても少ない場合に、配偶者に居住権を確保させながら、金銭の負担を減らし、場合によっては、配偶者に金融資産も取得させることができる制度であると説明されています。

 仮に、自宅建物(敷地権を含む)の4000万の価値のうち居住権が1000万、所有権が3000万と評価されれば、妻は、自宅の居住権のほかに、金融資産の2000万を相続できる可能性が出てきます。

 

2 要件

 ①配偶者が、被相続人の財産に属する建物に

 ②相続開始時に

 ③居住していること

 ④相続開始時に被相続人が配偶者以外の者と建物を共有していないこと

 ⑤遺産分割協議、遺産分割審判または遺言により定めること(手続き)

 

3 効果

(1)居住建物の全部について無償で原則として終身、使用及び収益をする権利を取得する。但し、期間については、遺産分割協議・審判又は遺言で、別段の定めをすることができる。

  例えば、配偶者が将来、身体的な条件その他により自宅で生活ができなくなって施設に入所するまでの期間というように不確定な期限を定めることも可能と解されています。

 

(2)登記をすれば第三者に対抗できる。

 逆に言えば、配偶者居住権の登記がないと、善意の第三者に対抗できません。所有権を取得した他の相続人が、勝手に建物を売却してしまったとき、配偶者居住権の登記がないと、新所有者から明け渡しを求められれば、配偶者は出ていかなくてはなりません。

 

(3)配偶者居住権は譲渡はできない。所有者の承諾を得れば賃貸することはできる。

 

(4)通常の必要費は配偶者の負担。特別の必要費及び有益費は所有者負担。通常の必要費とは、小規模な修繕費用などを指しますが、建物および敷地の固定資産税が含まれるとする見解もあります。この点は争いがあり固定資産税は所有者の負担とする説も有力です。特別の必要費の例としては、災害などで損壊した建物の修繕費用などがあげられています。有益費の例としては、建物増改築費用が挙げられます。所有者の承諾があれば、配偶者は建物の増改築をすることが可能です。

 マンションの管理費・修繕積立金については、固定資産税と同様に所有者の負担であるとする説が有力と思われます。

 

4 適用場面・制度のメリット

(1)遺産分割協議等の選択肢が増えると言われています。

 もちろん、現行制度の下でも、遺産分割協議の内容として、あるいは審判で、配偶者にこのような権利(使用貸借)を認めることは可能です。ただし、その場合であっても、登記はできませんので配偶者の居住権の保護としては不安定であり保護に欠けることは否めません。

 

(2)制度の最大のメリットは、遺産のうち金融資産が少ない場合でも、配偶者が居住建物を取得しながら、その他の遺産も取得できる余地が増えることとされています。

 ただし、その可能性は配偶者居住権の評価にかかってきます。評価の方法については、法制審会の中でも議論されましたが、まだ、指針は決まっていません。今後、何らかの簡易な評価方法についての指針が決まるものと思われます。