「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」について 【弁護士 城﨑 雅彦】

1 日弁連(日本弁護士連合会)は,2016年11月15日付けで「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」を取りまとめ,同年11月29日付けで最高裁判所長官,厚生労働大臣及び法務大臣に提出しました。

  日弁連は,2012年3月15日,2003年3月に裁判官を中心とする東京・大阪養育費等研究会が発表した「簡易迅速な養育費の算定を目指してー養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」に対する意見書を発表し,その中で,上記研究会の「算定方式と算定表」に対し,「裁判所は,十分検証し,地域の実情その他個別具体的な事情を踏まえて,子どもの成長発達を保障する視点を盛り込んだ,研究会提案に代わる新たな算定方式の研究を行い,その成果を公表すべきである。」と提言していました。

 日弁連の意見書では,「1年間の間に両親の離婚を経験する未成年子は252,617人で,年間出生数は約106万人で減少傾向の一途をたどっているから,全ての子の4分の1近くが両親の離婚にさらされる傾向にある。成人化に20年を要することから,単純に20年を乗ずると,両親が離婚している未成年子が約500万人存在することになる。一方,その約8割は母が親権者になっており,その母子家庭の平均就労収入は171万円で,全世帯平均年収564万円の3割にすぎない。未成年子を監護する母子世帯の2010年の貧困率は48%にも及んでおり,養育費額の公正な算定は,多くの子の成長発達の保障,子の福祉の増進に不可欠であるだけでなく,教育力は国の力の基本となるものであることを考慮すると日本の将来を決するほど重要なものといえる。」と述べ,養育費の適正な算定,具体的には高額化を求めています。

2 養育費とは,未成熟である子供が親から独立し社会に出るまでに必要とされる費用のことで,具体的には,衣食住の費用,教育,医療にかかる費用等子供の生活に係る費用全般のことです。

 養育費の金額については,夫婦の話し合いにより自由に決めることができますが,この話し合いができないときやまとまらないときには,家庭裁判所がその額を決定することになります。(民法第766条)

 これまで裁判所では具体的な事案に応じて様々な方式で『妥当な養育費の額』を算定してきましたが,一般的な簡易な基準というものがなかったために,「どれくらいの養育費が請求できるのだろうか」といった予測がなかなか立ちませんでした。

 このような状況から,2003年3月に発表された上記研究会の算定表(「現算定表」といいます。)は,お互いの収入と子供の人数,年齢をグラフに当てはめれば,養育費の額が算定できるというわかりやすく使いやすいものであったために,いち早く実務に定着し,その目標とされた「簡易迅速な養育費の算定」が実現されました。

 しかしながら,その一方で算定の根拠となった計算方法等に多くの問題点が指摘され,その結果として,「算定される養育費額が最低生活水準にすら満たない事案を多数生み出し,母子家庭の貧困を固定又は押し進めた」と批判されています。

3 現算定表の計算根拠の問題点の詳細及び日弁連の「新しい簡易な算定方式及び算定表」(以下,「新算定表」といいます。)につきましては,日弁連のホームページで確認していただきたいと思いますが,新算定表の見方は,子供の年齢が二区分から三区分にされているほか,現算定表と同じです。

 新算定表では,現算定表による養育費額が右欄外に表示されていますので,違いは一目瞭然です。

 ケースにもよりますが,夫の給与年収575万円,妻の年収200万円,子供2人(第1子6~14歳,第2子0~5歳)の場合,新算定表では,13万円となりますが,現算定表では,8万円です。

 この違いは大きなものです。今後,新算定表がどこまで活用されてゆくのか,大いに期待されるところです。