「相続法改正」パート1 【弁護士 大江 京子】

相続法が約40年ぶりに大改正されました 

 2018年(平成30年)7月6日、民法及び家事手続法の一部を改正する法律が成立しました(同年7月13日公布)。相続法については昭和55年以来の大きな改正となります。原則的な施行日は2019年7月1日(遺言書の方式緩和については2019年1月13日施行。配偶者居住権については、2020年4月1日施行)です。

 過去においては、1947年(昭和22年)に家族法の旧法の抜本改正がありました。これは、旧法の封建的「家」制度(戸主制度・家督相続・妻の無能力・妻の相続権の制限(直系卑属がいる場合に妻は相続権がないなど)が、憲法24条「家族生活における個人の尊厳と両性の平等」の原理に基づき一掃されました。

 また、1980年(昭和55年)にも、妻の法定相続分が3分の1から2分の1に引き上げられる重要な改正がありました。

 今回の改正(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)は、①高齢社会の一層の進展に合わせて、残された配偶者の保護を図る、②遺言の活用を促し相続に関する紛争防止する、③相続人間又は利害関係者の相続に関する公平を図るなどが狙いとされています。

 

改正の主な内容

1 配偶者保護の制度の新設

 配偶者短期居住権  

 配偶者居住権

 持ち戻し免除の推定

2 遺産分割に関する見直し

 預貯金債権の仮払い制度の新設

 遺産分割前に遺産の処分がなされた場合の措置規定

3 遺言制度の見直し

 自筆証書遺言の簡便化

 自筆証書遺言の保管制度の新設(遺言書保管法)

 遺言執行者の権限の明確化

4 遺留分制度に関する見直し

5 相続による特定財産の取得と登記の見直し

6 相続人以外の者の貢献を考慮する制度の新設

 今回は、このうち、配偶者居住権の保障について取り上げます。

 

配偶者居住権の保護

第1 現行制度と改正理由

 例えば、現行の制度では、夫の名義となっている自宅建物に夫婦で同居していた場合、夫が亡くなると、妻が自宅建物に当然に居住を続ける権利は認められていません。夫婦間で自宅建物の賃貸借契約や使用貸借契約を締結している場合は別ですが、そのような契約を夫婦間で締結することは稀ですので、残された配偶者の保護に欠けるとされていました。

 このため、判例は、使用貸借契約が成立していたものと推認されるとして残された配偶者の居住権の保護を図ってきました(最判平成8年12月17日)。

 しかし、この判例法理では、(ア)被相続人が反対の意思表示をしていた場合又はそのように解される場合(イ)遺言により、第三者へ居住建物が遺贈されていた場合は、使用貸借の推認が覆されて残された配偶者が保護されないという問題がありました。また、(ウ)生前、夫婦間で使用貸借契約が締結されていた(と推認される)場合も、相続発生後に、他の相続人が、相続財産の管理のために、使用貸借契約を解除して、妻に不動産の明け渡しを求めることは可能であるとする解釈もあります。(但し、この点は、妻には、2分の1の法定相続分があり、共有物の管理は、2分の1以上で決することから、使用貸借の解除は認められないとの反論も可能です。)

 そもそも夫が残された妻の居住権を保障しようとするのであれば、遺言により妻に居住建物の所有権を相続させるのが普通でしょう。但し、不動産以外の遺産がないか少ないときは、遺留分権利者である子が遺留分減殺請求権を行使することも考えられます。この場合、妻は、代償金を支払わないと自宅不動産を確保することができません。また、自宅は確保できても、金融資産の相続が認められないケースも出てきます(住むところ不動産は確保したが預貯金等を相続できないと生活費が足りないといったケース)。

 このようなケースを想定して、第三者から明け渡しを求められても最低限の期間(相続開始より6か月間)の猶予を認める制度(配偶者短期居住権)、居住を永続的に保障するとともに他の遺産も相続できる制度(配偶者居住権)が新設されました。

 

第2 配偶者短期居住権制度 (改正法 1037~1041条)

 

1 配偶者短期居住権取得の要件

 ①配偶者が、被相続人の財産に属する建物に

 ②相続開始時に

 ③無償で居住していること

 ④相続欠格事由(891条)廃除(892条、893条)がないこと

 

2 効果

 配偶者は、以下の期間は、当該居住建物に無償で居住する権利を取得する。

 ①遺産分割により居住建物の帰属が確定する日、または、相続開始の日から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間

 ②居住建物が遺贈された場合や、配偶者が相続を放棄した場合には、居住建物取得者が、消滅の申し入れをした日から6か月を経過するまでの間

 

3 実際の適用場面の考察

 前述のとおり、(ア)夫婦間の使用貸借契約が推認されない場合、(イ)遺言により、第三者へ居住建物が遺贈されていた場合、(ウ)遺言により配偶者以外の相続人に居住建物を遺贈する又は相続させるとされていた場合、(エ)所有権を夫婦間で使用貸借契約が締結されていた(と推認される)場合であっても、相続発生後に、他の相続人が、使用貸借契約を解除して、残された配偶者に不動産の明け渡しを求めてきたような場合などに、少なくとも6か月間は、配偶者の居住権を確保して身の振り方を決める期間の猶予を与えるというのが制度の主な存在理由であり実際の適用場面であると考えます。

 他の相続人に遺贈するないし相続させるとの遺言があるときでも、配偶者の居住権を保障すべく相続人間で新ためて協議をすることも可能です。

 ただ、残された配偶者と他の相続人間に対立があって、配偶者の居住権を保障する合意ができない場合には、同様に、この制度の存在理由があります。