過労死遺族の依頼者からの特別寄稿 【弁護士 中西 一裕】

1人で悩まないで まず相談を! 

【過労死遺族 石井 幸子】

 

 夫は大手商社に勤務していた27年前、対ソヴィエト(現ロシア)貿易に携わっておりました。常に出張の多い職務ではありましたが、死亡直前には出張先での長時間過密労働に加えて仕事上のトラブルも発生した中、1990年7月15日、心筋梗塞を発症し47歳の若さで亡くなりました。

 葬儀終了後 混乱する気持ちを抱えて「まずは相談してみよう!」と法律事務所に出かけました。いろいろ話を聞くうちにやはり「夫は過労死!」と確信するようになり、労災申請を決意しました。

 この申請にあたり担当いただいた弁護団のうちのお一人が中西一裕弁護士でした。弁護団の皆様は、東京の本社はもちろん、夫の出張先であった国内複数都市に加え、ロシア・モスクワへも出向き、過重労働の証拠収集、書類作成にご尽力下さいました。

 その後、千代田区労協を中心に組織された「石井さんの過労死労災認定を勝ち取る会」の皆様のお力と全国からの多くの署名も加わり、申請後1年8カ月の1992年7月労災認定を受ける事ができました。皆様のご支援に深く感謝しております。

 

 この労災申請と認定により、

(1) 夫の死は確かに過重な業務に起因していたことが証明されました。

(2) 申請に伴う調査が進むにつれ、今まで知り得なかった夫の仕事や職務環境を知る事ができました。

(3) 弁護団の先生方や、支援者の皆様の優しさに触れることにより大変癒されました。

(4) 私達遺族に労災年金の支給が始まりました。

(5) 私的な事と思っていた労災申請と認定が、働く人々に長時間過密労働を強いている企業へ反省と改善を求め、労災認定基準を含む労働行政の改正を求める事にもつながっていくことを知りました。

 夫の死後30年近く経っても過労死は無くなるどころか近頃では過酷な労働環境に加え、パワハラ・セクハラによる職場環境悪化も多く報道され、益々働く人々の命と健康が危険にさらされているように思います。遺族として被災者やご遺族が増え続ける事は耐え難いことです。過労死のない社会の実現を願ってやみません。

 労働災害に既に被災された御本人、そのご家族、また今まさに職場での悩み・苦しみを抱えている方、ご家族の働き方に心配なさっている皆様、一人で悩まず、まずはお近くの東京東部法律事務所に相談してみてはいかがでしょうか。きっと親身になって皆様のお力になって下さることと思います。

 


【担当弁護士 中西 一裕】

 石井さんの事件は「商社マン過労死事件」としてマスコミでも大きく報道された事件です。当時、私は弁護士登録1年目で、過労死弁護団の2名の弁護士とともに取り組みました。モスクワ出張したのは旧ソ連の最後の年で市内はどことなく騒然としていましたが、私たちは勤務先商社の協力を得て調査を行い、東京とモスクワを短期間で行き来する商社マンの過酷な勤務実態の立証活動をしたことが印象に残っています。

 この事件の数年後、当事務所に相談が寄せられた江戸川労基署管内の建設現場監督の過労死事件も受任し、厳しい工期の下で職人手配等に追われる現場監督の勤務実態を明らかにして労災認定を得ることができました。

 最近でもマスコミでたびたび報道されているように、勤労者の労働環境悪化による過労死(脳・心臓の血管疾患)や過労自殺(精神疾患による自殺)は職種を問わず発生しています。

 不幸にして事件が起きてしまう前に、ご心配な家族の方は是非ご相談いただければと思います。