手付解除と仲介手数料 【弁護士 城﨑 雅彦】

 不動産の購入,売却にあたっては,宅地建物取引業者である不動産業者の仲介を受けることが多くあります。契約書面などには「媒介」と書かれていますが,一般的には「仲介」といわれているもので,「売主または買主一方の,もしくは双方の依頼によって不動産の売買契約の成立に向けて交渉や調整等を行なうこと」です。

 新築の大きなマンションの分譲では,デベロッパーが売主,関連の大手不動産業者が販売代理業者となって販売業務を行なっていますが,このケースでは,買主側は不動産業者の仲介を入れずに売買契約を締結します。その結果,仲介手数料を負担することなく,マンションを購入することができます。

 一方,これまで住んでいたマイホームを売却したい,あるいは,中古の一戸建てを購入したいという場合には,不動産業者の仲介が必要となります。

 不動産業者との間の仲介契約は,媒介契約と呼ばれ,①一般媒介契約,②専任媒介契約,③専属専任媒介契約の3種類が宅地建物取引業法で定められています。

 3種類のどのような媒介契約であっても,仲介業者の仲介手数料については,昭和45年の建設省告示により,その上限が定められています。

 告示では

「 200万円以下の金額                                100分の5.25

  200万を超え400万円以下の金額           100分の4.2

  400万円を超える金額                             100分の3.15  」

と定められていますので,400万円を超える不動産取引では,仲介手数料は「売買金額の3%+6万円」が上限ということになります。

 このように,仲介手数料については上限が定められているため,「購入申込手数料」,「広告費用」,「現地案内費用」とかの名目で費用を受取ることは原則としてできません。

 不動産業者は,あくまで,上限として3%+6万円の仲介手数料を受けることができるというだけで,具体的な金額は依頼者と協議したうえ,「媒介契約書」においてその金額を定めなければなりません。不動産業者から「「3%+6万円」の仲介手数料は決まっているもので,これを下げることはできません。」という説明をされることがありますが,そういうものではありません。

 Aさんは,中古マンションをB不動産業者の仲介で,手付金200万円を支払い,代金4000万円で売買契約を締結し,仲介手数料については100万円を支払うということで一般媒介契約をしていましたが,その後,売主より手付金の倍返しで契約を解除するとの申し出があり,結局,契約は履行されないまま,解除となってしまいました。

 Aさんは,引っ越しの準備も済ませたうえ,借りているマンションについても明渡しの通告をしていたため突然の解除となって大変困惑しましたが,不動産業者より約束の仲介手数料100万円を支払えと請求され,びっくりしました。

 あらためて,不動産業者との一般媒介契約書を見てみると,次のとおり,記載されていました。

 

 一般媒介契約約款

 「第9条 乙(B業者)の媒介によって目的物件の売買または交換の契約が成立したときは,乙は,甲(A依頼者)に対して,報酬を請求することができます。ただし,売買または交換の契約が停止条件付契約として成立したときは,乙は,その条件が成就した場合にのみ報酬を請求することができます。」

 

 B業者は,「売買契約が成立したときは報酬を請求することができる。」「手付による解除は停止条件付契約の条件不成就ではない。」から,100万円を支払えというものです。

 確かに,第9条の内容からすると,B業者の言い分も成り立ちそうです。

 しかし,仲介手数料というのは,いわゆる不動産業者の仲介業務に対する報酬です。「取引の相手方を探して取引条件を交渉して,取引を成立させる」というのが仲介業務の本質で,報酬はいわゆる『成功報酬』です。

 そうしてみると,売買契約の締結だけでは,完全な成功ではありません。「契約の締結→売買代金の決済→移転登記,物件引渡」のすべてが完了して,初めて『成功』と評価されるのです。

 最高裁判決(昭和49年11月14日)は次のとおり判示しています。

 「宅建業者の仲介により売買契約が成立したときは,その後,依頼者の責めに帰すべき事由により契約が履行されなかったときでも,特段の事情があるべき場合は格別,一般に仲介による報酬金は,売買契約が成立し履行がされ,取引の目的が達成された場合について,定められているものと解するのが相当である。」

 100万円という仲介手数料は,契約の目的が達成されたとき,すなわち,残代金決済,登記,引渡がすべて完了することが支払の条件です。ですから,B業者の請求は認められません。

 では,B業者は,仲介手数料を全く請求できないのでしょうか。

 これについては商法512条を根拠に,「相当額」の報酬を請求することができます。そして,判例では,この「相当額」については,①取引額,②媒介の難易,③期間,④労力,⑤その他の事情を算定要素として金額を決定するとしています。(最高裁判決昭和43年8月20日)

 具体的な「相当額」はケースバイケースということですが,一般的な相場では,合意した仲介手数料の50%というところといわれています。

 仲介手数料について,「売買契約成立時に50%,取引決済完了時に50%を支払う」とされることが一般ですが,これは,手付解除により中途で契約が終了したときには成立時に授受した手数料ですべて清算とし,残金の請求もできないし,返金の請求もできないとする合理的なものといえるでしょう。