「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟について 【弁護士 塚本 和也】

第1  現状  福島原発事故から4年が経った今でも,避難を余儀なくされている方が約12万人おり、これまで築き上げてきた住居、仕事、人間関係などの「ふるさと」を奪われたままでいます。また,福島周辺に滞在している方々も不安を感じながら生活しています。さらに,事故の収束のめどは立っていませんし,放射性廃棄物の処理方法も決まっていません。 しかし,国と東京電力は,法的責任を認めておらず,無過失責任を前提とした東京電力の賠償も不十分です。それにもかかわらず,避難指示解除と合わせた賠償や支援の打切り,原発再稼働や輸出を進めようとしています。  このような状況の中で,全国で約1万人の被害者の方が国と東京電力の責任を追及する裁判を起こしています。

  第2 「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟
 1 概要

 「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟とは、2013(平成25)年3月11日に,800名の原告とともに、国及び東京電力を被告として,福島地方裁判所に提起した訴訟です。原告は,避難指示の有無や滞在者と避難者を問わず,昨年9月まで4回の追加提訴を経て,合計約4000名となっています。福島県内59市町村の全ての自治体と隣接する県の方々が参加する「オール福島・オール被害者」の原告団といえます。

 私たちは,本件訴訟において,地域を汚染した放射性物質を事故前の状態に戻すこと,そして元の状態に戻るまでの間の精神的な苦痛に対する慰謝料を求めています。また,国と東京電力の法的責任を認める判決をてこにして,脱原発や医療制度などの政策要求を行い,被害の全体救済につなげたいと考えています。私たちは,本件事故を公害だととらえ,裁判を通じて,「住民の生命や健康よりも経済活動を優先する社会はもうやめにしませんか」ということを訴えていきます。

   2 訴訟の進行状況

 私たちは,責任論では,「国と東京電力は,遅くとも2006年までに,原発の敷地高さを超える津波が予見可能だったのであり,全電源喪失を避ける措置をとるべきだったのにこれを怠った。」,損害論では,「人格権の一つの内容として,『健康に影響を及ぼす放射性物質によって汚染されていない環境で生活する権利』を大人であれ子どもであれ有しており,今回の事故で放射性物質が飛散したことにより,この権利が侵害されている。」などの主張をしています。

 これに対し,国は,「予見可能性の対象は本件津波であり,予見可能でなかった。規制権限がなかった。」,東京電力は,「年間20ミリシーベルト以下の放射線被ばくは受忍範囲である。現在の賠償で十分である。原状回復は費用的に無理である。」などと,開き直った無責任な主張をしています。

 本年1月より専門家の証人尋問が始まり,これまでに社会学の専門家で原発事故後の生活の変化を調べている方,原発に関する技術に詳しい方,放射性物質の汚染マップを作られた方,地震・津波の専門家の方,放射線被ばくによる恐怖感・不安感の把握について心理学の専門家の方の合計5名が証言をされました。

 その後は,裁判官が被害地を訪れ被害実態を確認する現場検証,そして,原告本人の尋問を予定しています。特に現場検証は,浜通り地域の復興の遅れ,動物によって荒らされた住居の匂い,人がいなくなって音がなくなった街など,そして中通り地域の保育園や農家の苦労などについて,裁判官に五官の作用で感じてもらうもので,被害救済のためには必要不可欠であると考えています。

  第3 法廷外の取り組み  提訴から2年を迎え,いよいよ裁判も後半戦へと突入し,判決が来年中に出る見通しとなってきました。  原告団は,本年から,東京や首都圏を定期的に訪れ,国会議員や省庁,さまざまな団体などに支援の要請を行ったり,原発の再稼働に反対するため原発立地自治体をめぐるキャラバンなどを行ったりしています。  先日,江戸川区で当事務所所属の弁護団員3名が生業訴訟についての学習会を行いました。本訴訟の意義をご理解いただき,その後の裁判期日の応援及び現地調査に来ていただきました。  私たちは,このような法廷外の取り組みに一緒に取り組んでいただける仲間をどんどん増やしたいと考えています。今後ともあたたかいご支援をよろしくお願い申し上げます。   【参考】 『生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟原告団・弁護団 HP:http://www.nariwaisoshou.jp/ フェイスブック:https://www.facebook.com/nariwaikaese