カジノ法案について 【弁護士 坂本 隆浩】

<縁あって学習会の講師をしました>

 2014年7月6日,江東区内で開かれたカジノ法案の学習会の講師をしました。自分自身,詳しいわけではありませんでしたから,インターネット等で調べての講師です。

 橋下大阪市長は「小さいころからギャンブルを積み重ね,全国民を勝負師にするためにもカジノ法案を通してください」などと発言したり,辺鄙な場所にカジノをつくって人を集めるなどとマスコミが言ったことがありましたので,江東区には関係ないと思っていましたが,江東区では「臨海部にカジノを」という声があがっているというのです。東京オリンピックのために臨海部が整備されるから,カジノをつくって海外の観光客を区内観光に結び付けるというのです。

 どうも江東区は本気みたいです。

 

<カジノ法案って>

 カジノ法案とは,正式名称を「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」案といい,カジノ法案ともIR水進法案とも言われています。

 なぜ,カジノ法案とも言われているかというと,この法案でつくられる「特定複合観光施設」にまっさきに「カジノ施設」が入っているからです。

 国際観光産業振興議員連盟(通称IR議連)の働きかけで,自民,維新,生活の3党による提出となったものです。

 法案が通れば,地方自治体が申請して国が認めれば「特定複合観光施設区域」に認定され,カジノをつくることができるのです。横浜市長がPTを設置するという方針を出していますが,江東区も乗り遅れまいとするようです。

 

<カジノは禁止されているのか>

 カジノは,賭博(ギャンブル)です。賭博することは,賭博罪になり50万円以下の罰金となります(刑法185条)。賭博場をつくって利益を上げることも3カ月以上5年以下の懲役です(刑法186条)。昔,ラスベガスのカジノで4億6000万円をすった国会議員が議員辞職したということもありました。

 なぜ禁止されているかというと,仕事もしないで一獲千金を狙うのは,健全な経済・勤労生活の風習を堕落させることになるからと言われています。さらに,ひどい場合には掛け金を得るために盗みに入ったり,強盗したりする人も出てきて,賭博する人だけでなくまわりの日とも迷惑を受けるということもあります。だから賭博は禁止されているのです。

 それゆえ,カジノを解禁するにはそれだけの理由がなければなりません。

 

<日本の公営ギャンブル>

 賭博は禁止されていても,いわゆる公営ギャンブルと言われるものがあります。競馬,競輪,競艇,オートレースです。これらは特別に法律で許されているものです(富くじ(刑法187条)にはなるが認められているものとして,宝くじ,サッカーくじ)。

 どうして許されるかというと,公設,公営,公益の点から許されるというのです。たとえば,競輪で見れば,地方自治体が施行し,自転車その他の機械工業の振興,体育・社旗福祉などの公益の増進を図り,利益を地方自治体に繰り入れることになっています(詳しくは「自転車競技法」を見てください)。

 

<カジノ法案では>

 公設,公営,公益という3要件があればいいというものではありませんが,カジノ法案はこれらもありません。

 カジノ法案では,民間事業者がカジノ施設をつくり,民間事業者が運営します(民設,民営)。カジノ業者から地方公共団体や国に納付金は納められますが,基本的にカジノの収益は民間事業者のものになります(私益)。

 カジノ法案では,カジノによる「有害な影響の排除を適切に行う観点」から必要な措置を講じるとされていますが,どこまで弊害をなくすことができるか大いに疑問です。

 

<ギャンブル大国日本>

 カジノによる有害な影響の排除と言ってもどこまで期待できるか疑問に思うのは,日本がすでにギャンブル大国だからです。

 私の所属する法律事務所は錦糸町にありますが,土日には平日にはいない警備員が10人以上現れて交通整理をしています。JRAの場外馬券売り場があるからです(ちなみに,事務所の入っているビルの道路を挟んだ反対側にJRAのビルがあります)。2010年の売上でも,中央競馬では2兆4000億円を超える売り上げがあります。

 パチンコはギャンブルと考える人は多いと思います。「三店方式」と言われて「特殊景品」が換金されているのですから,実体はギャンブルと違いはありません。このパチンコの2010年の売り上げは19兆円を超えます。カジノの売上が世界一と言われるマカオでの売り上げの数倍の規模です。

 日本はすでにギャンブル大国と言われてもおかしくありません。

 

<ギャンブル依存症になる?>

 ギャンブルが認められると,前に触れたようなことだけでなく,ギャンブル依存症(病的賭博)の問題が出てきます。

 ギャンブル依存症とは,悪いとわかっていても自分ではギャンブルを辞めることができなくなる病気です。アルコール依存症を考えればわかりやすいと思います。

 一時,主婦のパチンコ依存症が話題になりました。炎天下の車内に子どもを置き去りにして子どもを死なせてしまったというニュースも結構見かけました。ギャンブル大国の日本では,カジノは認められていなくてもギャンブル依存症の人が相当数いることは明らかです。

 厚生労働省の調査では,2008年には,日本の成人男性の9.6%,成人女性の1.6%(平均して5.6%)がギャンブル依存症であったということです。人数からすると550万人でしょうか。オーストラリアではあまりにギャンブル依存症が多いために社会問題化されていると言われていますが,それでも2.1%です。

 カジノを解禁したら,ギャンブル依存症はもっと増えるのは誰でもわかりますよね。

 

<韓国の例>

 韓国では,2000年10月から自国民でも利用できるカジノがオープンしました。2003年末には,そのカジノとホテル,テーマパークを備えた「江原ランドリゾート」が本格的にオープンしました。午前10時の開業前には平日で600人,週末には1300人が行列を作り,午前6時(午後6時ではありません)の閉店とともに多くの人が店から出てくるということです。これまでにランド内で自殺した人は48人を数えるとか(ちなみに,東京ディズニーランド内での自殺者を検索したら,従業員1名の自殺という記事がヒットしました)。賭博中毒センターも作られたということです。

 日本でカジノが解禁されたら,どうなるでしょうか。賢明な日本人は,カジノには見向きもせず,パチンコ屋さんに通うのでしょうか。

 

<本当にカジノは必要なの?>

 日本にカジノ施設をつくるのは,観光振興,地域振興,財政改善につながるということです。ギャンブルは,しょせん,負けた人から勝った人に財産が移ることです。何かを生み出すものではありません。オリンピックで人が集まったとしても,その人がカジノから区内の観光施設に行くとは限りません。カジノで負けたという場合にはなおさらでしょう。オリンピックが終わってもカジノは残ります。その弊害は,ギャンブル依存症だけでなく青少年への悪影響などギャンブルの弊害と言われているものがそのまま残ります。

 必要なのは,地域にもとからある観光の押し出し,地域にある中小業者が利益を上げる産業振興等ではないでしょうか。多くの人の生活や人生を破壊するようなギャンブル施設ではないと思います。