<はじめに>
利息制限法を超える利率での利息を支払い続けたので,利息を払いすぎ,払いすぎた分を元本に充当すると借金はなくなり,逆に支払いすぎとして過払い金の返還を求めることができるのは今ではほとんどの人が知っていることでしょう。最近は,借金の相談も少なくなり,過払い金事件を受けることも少なくなりました。破産件数からすると,借金問題があらかた片付いたとも思えませんが,とにかく少なくなっています。
そんな中で私が最近担当した事件について紹介したいと思います。
<不動産担保切替>
1件目は,不動産担保切替というものです。はじめは無担保ではあるが借入利率は高いまま借入・返済を繰り返し,一定年数がたってから不動産を担保に借入限度額を増やし,利率も利息制限法前後に減らすというものです。通常,不動産担保に切り替える時に無担保で借り入れていた残金を不動産担保での借入金で返済します。なぜこれが問題になるかというと,無担保で借り入れていたものと不動産担保に切替えた後のものを一連計算できるかどうかです。一連計算できれば,高利率で借入していた時の過払い金を不動産担保での借入金に充当できますので,現在の借入金を減らすことができたり過払い金が発生したりしますが,一連計算できないと不動産担保切替後の借り入れだけを考えるので現在の借入金を減らすことができなかったり過払い金が発生しなかったりします。いわば天と地の差です。
2012年9月11日,最高裁判所は,はじめの契約が無担保のリボルビング方式(借入額に応じて返済額が変更されるもの)で限度額の枠内で借入返済を繰り返すものだったが,不動産担保切替後は担保を設定したうえで最初に貸付してその後は確定金額の返済のみがされているので,最初の契約と後の契約は弁済の在り方を含む契約形態や契約条件が大きく異なっているから一連計算できないと判断しました。ただ,最初の契約と後の契約が事実上1個の連続した貸付取引であることを前提に取引していると認められる特段の事情があれば一連計算を認めるとも判断しました。
無担保の借入を長く続けているからこそ借入限度額も増やし利率も引き下げるが,もしものために不動産に担保を付けたに過ぎないと思いますので,一連計算するのが当然と思いますが,最高裁判所はそうは判断しませんでした。
私の依頼者の場合は,不動産担保切替後に極度額は2倍に増額しましたが,リボルビング方式で借入・返済を繰り返しているなどから,一連計算が認められ過払い金を受け取っただけでなく担保も抹消することができました。最高裁の判断したものがどこまで適用されるかを見極めることも重要なこととあらためて認識しました。
<移送>
もう一つはサラ金業者の嫌がらせと言えるものです。
東京簡易裁判所に過払い金返還訴訟を起こしましたが,被告のサラ金業者は本店のある京都簡易裁判所へ移せという移送の申し立てをしました。理由は,人手が足りかないからということです。
しかし,このサラ金業者は東京簡易裁判所に貸金返還訴訟を起こしています。人手が足りないと言えないことは明らかです。裁判官はあっさりと移送申立てを却下しました。
このサラ金業者は以前も移送の申し立てをしていました。一人の依頼者が数社のサラ金に過払い金返還訴訟を東京地方裁判所に起こしたところ,このサラ金業者の分だけだったら東京簡易裁判所の管轄だから東京簡易裁判所に移送しろという申立てです。これは民事訴訟法の条文の解釈の問題がからみますのでそれになりに筋の通った申立てでした(結論は却下ですが)。ところが,京都への移送申立ては筋も何もあったものではありません。
移送が申し立てられると,一度決まった裁判の日が取り消しになり,1ヶ月以上伸ばされます。過払い金の3~5割であれば早く支払うが,それに応じなければ長くなるぞという嫌がらせです。
サラ金業者は,解決済みの論点も蒸し返してくることもあります。過払い金だからといって手を抜くことはできない分野であると感じた次第です。