日弁連事務次長としての活動から

弁護士 中西 一裕

 昨年2月に日本弁護士連合会(口弁連)の事務次長に就任し、任期の2年間はほとんど口弁連で活動しています。

その間、事務所の本来の弁護士業務がほとんどできず、事務所と東部地域の皆さんにはご迷惑をおかけしています。


 口弁連事務次長の仕事は、選挙で選ばれた会長・訓令長の執行部を補佐し、事務職員の業務を統括するもので、現在は事務総長の下に6人の事務次長(弁護士5人、職員1人)の体制でやっています。


 司法制度改革により、法科大学院の創設と法曹人口の大幅増加、裁判員裁判による刑事裁判への市民参加、日本司法支援センター(法テラス)による法律援助事業の拡大などが実現し、それに応じて口弁連・弁護士会の活動分野も大きく広がっています。人権擁護活動や悪法阻止運動といった従前からの活動に加え、立法作業や様々な制度作りへの参加、スタッフ弁護士の派遣といった多様な分野での貢献が求められています。


 とりわけ、昨年3月11日の東日本大震災と福島第一原発事故以後は、その対応に口弁連の全活動の半分以上が費やされる状態だったと言っても過言ではありません。被災者の救済のための派遣法律相談、いわゆる「二重ローン問題」に象徴される被災者の経済的救済制度作りへの働きかけ、原発事故をめぐる真相究明と被害救済のための様々な活動に多くの弁護士が関わっています。私自身も、原発事故被害調査や津波被害対策の活動で何度か被災地に赴きました。


 私は主に人権擁護委員会、公害環境委員会、労働法制委員会と法曹養成制度(法科大学院の支援)を担当していますが、大震災後は原発事故への対応についても担当分野に加わりました。以下、私の関わっている活動のうち死刑制度と法曹養成の問題について紹介します。


 

1 死刑制度廃止をめぐる議論と運動
 昨年10月の口弁連人権擁護大会では、『罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言』が採択され、これまでは「死刑制度の是非について検討し、その間は死刑執行を停止する」
というスタンスだった口弁連が死刑廃止について一歩踏み込んで検討する方向に動き出しました。    

 

  その背景には、裁判長制度が実施され、一般国民の裁判長が死刑求刑事件に直面し、すでにいくつかの死刑判決も出され始めたこと、民主党政権になって死刑場の公開、19年ぶりの1年間死刑不執行など、死刑をめぐる議論が活発化しつつあること等が挙げられます。

 実際の裁判においても、昨年10月、大阪のパチンコ店放火事件において絞首刑が憲法が絶対的に禁じている「残虐な刑罰」に当たるとして争われました。判決自体は合憲とされたものの、この裁判では元最高検検事とオーストリアの法医学者を弁護側証人として証拠調べが行われ、裁判長を交えた評議がなされたことが画期的でした。


 もちろん、死刑制度については世論調査で圧倒的多数が支持している現実がありますが、生命を奪う究極の非人道行為を国家自身が行うという人道上の問題に加え、冤罪により無事の生命が奪われる可能性が否定できないことから、国際的には死刑廃止国が大勢を占める潮流にあります。


 今後、人権擁護大会の宣言をふまえ、口弁連内外の議論と運動に本格的に取り組んでいくことになります。


2 法曹養成制度の現状と司法修習生の給費制廃止問題
 

 司法改革の結果、2004年に法科大学院が開校し、当初は多数の社会人入学者ら多様な法曹志望者を受け入れて話題となりましたが、司法試験の合格率が想定をけるかに下回ったことに加え、経済不況による弁護士の「就職難」も影響し
て法科大学院の入学志願者は激減し、いくつかの法科大学院では学生の確保すら困難になる悪循環に陥っています。


 そこで、政府は昨年5月、「法曹の養成に開するフォーラム」を立ち上げ、関係省庁の政務と法曹三者、法科大学院、有識者らで協議を始めています。
 

 旧制度のような司法試験受験の一発勝負が中心となった制度でなく、法科大学院の専門教育を中核とした法曹養成制度にするためには、法科大学院における充実した教育体制の確保とその修了者の大部分が司法試験に合格するシステムの構築が必要不可欠です。この点で最大の問題点は、法科大学院が当初の段階で乱立し、入学者が司法試験合格者数をはるかに上回ってしまったことにあります。

現在は是正されっつありますが、地域適正配置に留意しつつ法科大学院の統廃合と定員削減を進め、司法試験合格率を大幅に上げる必要があります。


 法曹養成制度に開しては、一昨年の裁判所法改正により1年延期されていた司法修習生の給費制が昨年10月末で廃止され、貸与制に移行しました。法科大学院の高額の学費負担に加え、最高裁監督下での1年間の司法修習も貸与で自己負担とすることは、法曹志願者に過重な負担を課すことになるばかりか、理念的にも、戦後司法改革によって導入された法曹三者を国が対等平等に養成する司法修習制度の理念を損なうものです。

 口弁連のこの間の遠敷により、貸与制への移行については批判が強まっており、昨年11月の衆議院法務委員会では、政府の裁判所法一部改正法案に対する野党修正案で、法曹養成制度の抜本的検討を行う間は給費制を存続するとの提案がなされ、活発な質疑が行われました。

 残念ながら混迷した政治情勢の下で法案は継続審議となっていますが、口弁運では給費制の復活に向けて引き続き運動を継続しています。