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東京東部法律事務所の弁護士による活動報告

現地調査企画(福島)の感想 【弁護士 岩本 拓也】

 2019年3月18日に、自由法曹団という弁護士の団体の現地調査企画にて、バスにて、楢葉町→富岡町→大熊町→双葉町→浪江町と巡った。道路沿いには、バリケードが立ち並ぶ様子、除染土の中間貯蔵施設、除染土を運搬するトラック、また遠目に福島第一原発の排気筒等を見ることができた。福島第一原発が近づくにつれて、放射線測定器が上がっていくことに放射線の存在をリアルに感じるとともに、放射線の怖さを感じた。沿道には、帰還困難区域もあり、住宅や車が8年前のままになっているのを見て、ふるさと喪失の一端を垣間見た気がした。

 

 富岡町にある中学校を訪れ、外の窓から体育館の内部を除いたところ、卒業式のセットが組まれたままとなっているとともに、人が過ごしたと思われる跡があった。これは、卒業式を前日に控えた3月11日に震災が起こったため、住民が避難所として利用し、そのままの状態になっているとのことであった。私は、震災から8年間が経っても時間が止まったままの光景を見て、震災が人々の平穏な生活を変えてしまったことを改めて実感した。

 

 また、実際に津波の被害を受けた小学校を訪れた。この小学校では、震災の際には、近くの2km程離れている山に避難をすることができたとのことであった。小学校の体育館の2階の窓には、くっきりと砂の跡が残っていることが確認でき、その高さは10mを超えるものであった。これは、震災当時にその高さまで津波が来たことを示すものであった。私は、生の光景から津波の高さを肌で感じることができ、自然災害のおそろしさを実感した。

 

 加えて、中間貯蔵施設での除染土の保管は30年であり、その後の処分場は決まっていないことを聞いた。これを聞いて、一見するとオリンピックに向けて復興がPRされているが、根本的な問題は解決されないままだということを感じた。

 

 今回の訪問を通じて、原発事故の爪痕が深く残っていることを強く実感した。訪問の際には、東京電力廃炉資料館も訪れた。その中では、津波による事故のリスクについて、十分な対策が取れなかったことについて反省の弁が述べられている場所があった。しかしながら、現状では、被害者に対する十分な補償は行われていない。被害者に対して、十分な賠償がなされなければならないと感じるとともに、エネルギー政策の転換がなされ、原発事故による被害が二度と起こらないようにしなければならないという思いを強くした訪問であった。

弁護士活動コラム   2019年05月09日   admin

「相続法改正」パート8(完) 【弁護士 大江 京子】

遺留分に関する見直し

 

1 主な改正点

⑴ 遺留分減殺請求権は、遺留分侵害額請求権に名前が変わり、遺留分侵害額請求権の法的性質は金銭債権となりました。

⑵ 相続人に対する贈与は、相続開始前10年間の贈与で、かつそれが特別受益に該当する場合に限り、遺留分算定の財産に参入することになりました。

⑶ 遺留分侵害額の算定方法が、明記されました。

 

2 遺留分制度とは

⑴ 遺留分制度

 遺留分制度は、遺族の生活保障と共同相続人間の最低限度の公平を図るために、被相続人の財産処分の自由に制限を加える制度をいいます。

 例えば、被相続人が、自己の財産の全てを第三者に遺贈するという遺言を作っていた場合であっても、相続人である妻と子は、あるいは直系尊属は、自分の遺留分について、遺贈を受けた第三者に対して権利主張できるとする制度です。

⑵ 遺留分権利者

 兄弟姉妹を除く相続人(配偶者・子・直系尊属)です。子の代襲相続人も、子と同じ遺留分を持ちます。

⑶ 遺留分の割合

 直系尊属のみが、相続人である場合 3分の1

 その他の場合 2分の1

 

3 改正点1~遺留分侵害額請求権の法的性質(改正法1046条1項)

 遺留分減殺請求権(改正法では遺留分侵害額請求権)は形成権~権利を行使すると当然に効果が発生する権利とされています。(この点は、改正後も変わりません。)

 改正前の解釈は、遺留分減殺請求権を行使すると、遺贈又は贈与契約は、遺留分を侵害する限度で失効し、受遺者又は受贈者が取得した権利は、遺留分を侵害する限度で当然に、遺留分減殺権を行使した者に帰属する(物権件的効果説)と解されていました(最高裁51年8月80日判決:民集30巻7号768頁)。

 しかし、この物権的効果説では、たとえば減殺されるのが不動産の場合、受贈者・受遺者と遺留分減殺請求権を行使した者との共有状態が発生する場合があり、その状態を解消するためには共有物分割請求訴訟を地方裁判所に提起することが必要になり、新たな紛争の種にもなりかねないとの指摘がありました。また、被相続人が特定の相続人に家業を継がせるため,株式や店舗等の事業用の財産をその者に遺贈するなどしても,減殺請求により株式や事業用の財産が他の相続人との共有となる結果、事業承継後の経営の支障に なる場合があるとの指摘もされていました。

 明治民法が採用していた家督相続制度の下では,遺留分制度は家産の維持を目的とする制度であり,家督を相続する遺留分権利者に遺贈又は贈与の目的財産の所有権等を帰属させる必要があったため,物権的効果を認める必要性もありましたが、現行の遺留分制度は,遺留分権利者の生活保障や遺産の形成に貢献した遺留分権利者の潜在的持分の清算等を目的とする制度となっており,その目的を達成するために,必ずしも物権的効果まで認める必要性はなく,遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する価値を返還させることで十分と考えることができます。

 このような理由から、今回の改正では、遺留分減殺請求権(遺留分侵害額請求権)の行使によって、金銭債権が発生することになりました。

 

4 改正点2~遺留分を算定するための財産の価額に参入する贈与の範囲(1044条1項、3項)

 現行法では、以下のように規定されています。

 

 「遺留分、被相続人が相続開始の時において有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。」(現行法1029条1項)

 「贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。(略)」(現行法1030条)

 「…903条(特別受益)…の規定は、遺留分について準用する。」(現行法1044条)

 

 以上から、通説・判例は、相続人に対する贈与は、相続開始前1年間にしたものはすべて、それより前にした贈与は、特別受益に当たるものが遺留分算定に加算されると解してきました。

 しかし、古い特別受益まですべて加算するとなると、そのことを知りえない相続人以外の受贈者・受遺者の地位が不安定になるという理由から、相続人に対する贈与は、相続前10年間のもので、かつ、それが特別受益に該当する場合(婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本としての贈与)にのみ、遺留分算定に加算されることとなりました。

 

5 改正点3 ~遺留分侵害額の算定

 現行法には、遺留分算定のプロセスは明示されていません。改正法では、これが明示されました。但し、明示された算定方法は、最高裁平成8年11月26日判決(民集50巻10号2747頁)に基づきこれまでも実務で採用されていた算定方法と原則として変わりはありません。

  

 改正法による遺留分侵害額の算定方法は、以下の通りです。

⑴ 遺留分を算定するための財産の価額(改正法1043条)

 相続開始時において有していた財産の価額に、贈与した財産の価額を加え、相続債務の全額を控除した額

 ここにいう贈与した価額とは、前記改正点2で説明した通りです。すなわち、受贈者が相続人以外の場合は、相続開始前1年にした贈与、受贈者が相続人の場合は、相続前10年間のもので、かつ、それが特別受益に該当する場合(婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本としての贈与)です(1044条1項、3項)。

 相続開始時に有していた財産の価額、贈与した財産の価額は、ともに相続開始時を基準に評価されることが改正法により確認されました(改正法1044条2項による904条の準用)。これは従来の判例実務の扱いを立法化したものです。

⑵ 遺留分額(改正法1042条)

 遺留分を算定するための財産の価額×遺留分の割合

 なお、遺留分の割合は旧法と変りません。すなわち、直系尊属のみが、相続人である場合は3分の1、その他の場合は2分の1です。

 なお、相続人が数人ある場合は、上記の遺留分割合に法定相続分の割合を乗じて求めることが明記されました(改正法1042条2項)。

⑶ 遺留分侵害額(改正法1046条)

 遺留分侵害額は、遺留分額から遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額と遺留分権利者が相続によって取得すべき財産の額を控除した上、遺留分権利者が取得する相続債務の額を加算して求めます。

 ここでの計算では、遺贈又は特別受益の額に時間的制限がないので注意してください。

 また、遺留分権利者が相続によって取得すべき財産とは、寄与分を考慮しない具体的相続分を言います(改正法1045条2項2号)。この点は、従来解釈の争いがありましたが、改正法により、明確にされました。

 受遺者受贈者が、遺留分権利者が取得する相続債務を弁済等により消滅させたときは、遺留分権利者に対する意思表示により、消滅した債務額の限度において、負担額を消滅させることができるようになりました(改正法1047条3項前段)。

以上の計算方法を簡略化して示すと以下のとおりです。

遺留分侵害額=(相続開始時の財産の価額+贈与した財産の価額-相続債務)×遺留分率×法定相続分率-(遺留分権利者の特別受益)-(遺留分権利者の具体的相続分)+(遺留分権利者が負担する相続債務) 

 

6 遺留分侵害額請求権(旧:遺留分減殺請求権)の行使と時効

⑴ 第1段階 遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示

 この意思表示は、改正法1048条の期間制限にかかります(現行法と同じ)。すなわち、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間。相続開始の時から10年間。この期間内に行使しないと時効によって、消滅する。

⑵ 第2段階 具体的な金銭債権

 遺留分侵害額請求権を行使すると、遺留分権利者は、受遺者又受贈者に対する金銭債権を取得します。この金銭債権は、以下のとおり、民法の消滅時効(改正民法166条1項)の適用があります。この点が現行法と異なる点ですので、注意してください。(今回の改正で遺留分侵害額請求権を行使すると金銭債権が発生するとされたことによる。)

 

  主観的起算点 権利を行使することを知った時から5年

  客観的起算点 権利を行使することができる時から10年

 

 改正法上の時効の起算点(とりわけ主観的起算点)の解釈については、今後の判例実務の運用次第のところもありますが、遺留分侵害額請求権を行使したときから、5年と考えておけば安全でしょう。

 

弁護士活動コラム   2019年03月25日   admin

「相続法改正」パート7 【弁護士 大江 京子】

相続人以外の寄与を考慮する制度の創設

 

1 改正内容(改正法1050条)

 相続人以外の被相続人の親族が、被相続人の療養看護などにより、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合に、相続開始後、相続人に対し、寄与に応じた金銭の支払いを請求できる制度が新設されました。

 

2 現行法制と改正理由

 

⑴ 相続人やその他の親族が経済的な援助(扶養料の支払)をした場合

 被相続人が要扶養状態にある場合には、扶養義務者が被相続人を扶養した場合には、現行法上も、他の扶養義務者に対する立替扶養料の求償が認められています(各扶養義務者の分担割合を定める審判の申立(家事事件手続法第182条第3項))。また、 扶養をした者が相続人である場合には、立替扶養料の求償という手段のほかに、寄与分の申立てをすることも可能です。

 また、扶養義務を負わない親族が被相続人を扶養した場合には、その親族は、扶養義務者に対し、事務管理又は不当利得を原因として、立替扶養料の請求をすることができると考えられます。

⑵ 相続人やその他の親族が被相続人に対して療養看護等の事実行為をした場合

 療養看護等の事実行為をした者が相続人である場合には、被相続人の死亡後に寄与分の申立てをすることが可能です。しかし、療養看護等の事実行為をした者が相続人でない場合には、現行法の下では、親族に対する求償請求を当然に認めるのは困難とされています。

 相続人の配偶者の貢献を配偶者の寄与として認めた審判(東京家裁平成12年3月8日家月52・8・35)もありますが、仮に相続人が被相続人より先に亡くなっていた場合は、配偶者の貢献を相続手続きで考慮することはできません。

 

⑶ 以上より、相続人以外の親族が、療養看護などの事実行為により貢献した場合に、相続に際してその貢献に報いる方策を創設することとなりました。

   

3 要件(改正法1050条1項)

  被相続人の親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)のうち、相続人、相続放棄をした者、相続欠格事由のある者(民法891条)を除く者

 無償で

 療養看護その他の労務の提供をし、

 それにより被相続人の財産の維持又は増加し

 そのことが特別の寄与と認められること

 

4 権利行使期間の制限(改正法1050条2項)

 特別寄与料の請求は、特別寄与者が、

 相続の開始及び相続人を知ったときから6か月(時効)

 又は

 相続開始の時から1年間(除斥期間)

 内に権利を行使しなければなりません。

 

5 権利行使の方法(1050条1項、2項)

 協議

 特別寄与者は、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)

 の請求ができ、当事者間の協議により特別寄与料を定めます。

 

 ⑵ 家庭裁判所に処分を求める申し立て  

  協議が整わないか又は協議をすることができないとき、特別寄与者は、協議に代わる処分を求めることができます(改正家事手続法216条の2)

 

6 特別寄与料の算定(1050条3項~5項)

 ⑴ 家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して特別寄与料の額を定める。

 ⑵ 特別寄与料の額は、相続財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。

 ⑶ 相続人が数人いる場合には、各相続人は、相続分に応じて、特別寄与料を負担する。

 

7 若干のコメント

 現行法上相続人に対して審判で寄与分が認められるケースは多くありません。特に療養看護ほかの労務提供に関して満足できる寄与分が認められるケースはほとんどないと言っても言い過ぎではないのではないでしょうか。認められたとしても、金額は多くないのが実情です。

 今回の改正で創設された制度についても要件が厳しく、「特別の寄与」を裁判所がどう判定するかは基準が定かではありません。もちろん協議によって、円満に解決できれば問題はないのですが、新制度がどの程度機能するのか、懐疑的にならざるを得ません。

 特別寄与者の範囲についても、議論がありました。今日、家族の形態は多様化しており、戸籍上の親族に限るということ自体に批判があります(衆参法務委員会の付帯決議参照)。

 世界に例のない高齢社会の中で、近い将来日本は誰もが介護(被介護)と無関係ではいられない日が来るともいわれていますが、そのための社会保険であるはずの介護保険は、保険料のアップと給付削減の改悪が続いています。また、国が思い切った介護報酬の見直しをしないために介護現場で働く人たちの賃金労働時間などの改善は一向に進みません。

 介護の問題は、国家が責任を負い社会全体で支えることが必要であり、家族や親族の一部が負担できる問題ではありません。今回の改正の特別寄与者の制度は、その実効性のみならず根本的な発想自体に疑問なしとはしません。

 ただ、そうはいっても相続人間(その他の親族も交えて)親の介護をした人としない人の不公平感がうずまき、相続に関する争いを長期化させている実態があることもまた事実です。親が要介護状態となって初めて介護の現実に直面するのでは遅いといえます。親が元気なときに家族全員で、もしもの時の介護体制について、支出の面も含めて話し合うことが必要でしょう。無理のないように介護保険その他の社会的資源を上手に使うこと、報酬や実費についてもあらかじめきとんと決めておくことが、争いの種を摘むことにもなるはずです。

(続く)

弁護士活動コラム   2019年03月20日   admin

「相続法改正」パート6 【弁護士 大江 京子】

第1 一部の分割(改正法907条1項2項3項)

 

1 改正内容

 共同相続人が、遺産の一部の分割の協議及び審判を申し立てることができることが明文化されました。但し、一部分割の結果が、他の共同相続人の理益を害するおそれがあるときは、申し立ては却下されます。

 また、一部分割に反対する共同相続人は、遺産全部分割の審判を申し立てることが必要とされています。二つの申し立ては、併合して審理されます。

 

2 現行の実務と改正理由

 共同相続人全員が、同意して一部の遺産の分割をすることは現行法上も可能です。(ただし、被相続人は、遺言で5年を超えない期間を定めて分割を禁止することができます。908条)

 しかし、一部分割の協議が整わないときに、家庭裁判所に一部分割の申し立てをすることができるかどうかは争いがありました。

 民法906条は、遺産分割の基準として、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と規定しており、また、相続人の特別受益や寄与分も考慮して公平な遺産の分割になるように配慮されています。一部の分割をすると、結果的にこれらの事情を十分に配慮できないのではないかという危惧もあります。他方で、争いのない預貯金や現金などの分割をとりあえず先にしてしまいたいという需要もあることは事実です。

 そこで、改正法では、一部分割の審判を認めることを明らかにするとともに、一部分割が他の共同相続人の利益を害するおそれがあるときには、これを認めないことができるとして、調整しました。

 

3 一部分割の効果

 一部の遺産を残余の遺産から分離して、一部分割協議の内容に従って、相続人が確定的に取得します。ただし、後に残部の遺産分割協議をする際には、一部分割の内容も斟酌されて、各相続人の具体的相続分を定めることになると思われます。そうでないと、一部分割が他の共同相続人の利益を害するおそれがあるときにはこれを認めない(改正法907条2項)とした法の趣旨に反するからです。

 

第2 遺産分割前に遺産が処分された場合の規律(改正法906条の2)

 

1 改正内容

 コラムパート5で説明したとおり、今回の改正で、相続財産に属する預貯金債権については、上限額を設けて、遺産分割前に、相続人が単独で払い戻しが受けられるようになりました(改正法909条の2)。

 この規定との関係で、同条によらない預貯金の払い戻しほか遺産に属する 財産が遺産分割前に処分された場合の規律について新たに規定されることになりました。すなわち、処分をした相続人を除いた共同相続人全員の同意があるときは、処分された財産も遺産分割時に存在するものとみなすことができる(遺産分割の対象とできる)とする規定が新設されました(改正法906条の2)。

 どういう意味なのか、多少理屈っぽい話になりますが、説明していきます。

 

2 現行制度と改正理由

 

 ⑴相続の効果と遺産の共有

 相続が発生(被相続人が死亡)すると、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」(民法896条)のが原則です。積極財産だけではなく、借金のような消極財産も承継します。そして、「相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属する。」(同898条)とされ、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」(同899条)と規定されています。

 民法899条の「共有」(共同所有)の意味については、諸説ありますが、判例は、民法物件編に規定されている249条以下の共有と変らないとする立場です(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁参照)。

 判例のように共有の意味を解すると、各相続人は、遺産分割前であっても、各自の相続分に応じた持ち分については、自由に処分できるとするのが、理論的な帰結になります。

 

⑵では、遺産分割前に、各自の持ち分(あるいは持ち分を超えて相続財産)が処分されたとき、遺産分割調停・審判で、そのことは考慮されるのでしょうか。

 この点につき明確に判示した最高裁判決は見当たらず、学説上も、定説がない状況とされています(法制審議会 第20回部会資料7頁)。    

 例えば、α)持分譲渡の対価についても代償財産として遺産分割の対象とすべきという見解や、β)一部分割がされたのと同様に、当該遺産を取得したこととして、その具体的相続分を算定すべきであるという見解もある一方で、γ)遺産分割は、相続開始時に存在し、かつ、現存する遺産を対象とする手続であることから、相続開始の前後に、一部の相続人が、無断で第三者に遺産である不動産を売却して代金を隠匿したり、無断で被相続人名義の預金口座から預貯金の払戻しを受けたりしたとしても、そのようなものは、遺産分割の対象となる遺産の範囲には属さないし、遺産分割事件における分割審理の対象とはならない、これらは、不法行為又は不当利得の問題として民事訴訟により解決されるべき問題である、ただし、相続人がその事実を認め、現存遺産に含めて分割の対象とすることに合意すれば、その相続人が処分した預貯金等を取得したものとして処理することが可能となるにすぎないなどと論じる見解があります。

 最後のγ)がこれまでの実務の扱いとなっています。

 

⑶しかし、この判例・実務の立場を貫くと、民法が相続財産の分割は、物件編に定める共有物の分割とは異なる手続きによる(民法906条以下)とした意味が半減したり、相続人間の不平等が生じるなどの問題もでてきます。

 

具体的な事例で検討してみましょう。

 

【事例1】具体的相続分の範囲内で権利行使がされた場合

 

〇相続人 A、B(法定相続分1/2ずつ)

〇遺産が 1400万円(1000万円(不動産)+400万(預金)

〇特別受益 Aに対して生前贈与1000万円

 

 このケースでは、Aの具体的相続分は、(1400万+1000万)×1/2-1000 万=200万となります。Bの具体的相続分は1400万×1/2=1200万となります。

 特別受益分を考慮して実際に取得する金額が同じとなり、公平な分割といえます。

 では、Aが相続開始後に密かに200万円を引き出した場合、現在の実務の扱いのように、遺産分割で、それを考慮しないとどうなるでしょうか。

 遺産分割時に実際にある財産は、1200万ですので、これに特別受益分1000万円を持ち戻して各自の相続分を乗じて相続分を出すと、各自の相続分は1100万円になります。そうすると、Aの具体的相続分は、1100万円-1000万円=100万円、Bの具体的相続分は、1100万円になります。

 しかし、Aは、実際には、100万+200万円(引出し分)+1000万円(特別受益分)=1300万円を取得できることになり、不当な引き出しをしたAが得をすることになります。

 

【事例2】(具体的相続分を超える権利行使がされた場合)

 

 では、先の例で、Aが相続開始後に密かに500万円を引き出したとして、現在の実務の扱いでそのことを遺産分割で考慮しないとどなるでしょうか。

 遺産分割時に実際に存在する遺産は、900万円ですので、

Aの具体的相続分は、(900万+1000万)×1/2-1000万=▲50万

Bの具体的相続分は、(900万+1000万)×1/2=950万で、遺産分割における取得額は、Aは0円、bは900万円となります。

 

 実際に取得するのは、Aが、1000万(特別受益)+500万(引き出し分)=1500万円、Bは、900万円となり、不当な引き出しをしたAが得をすることになります。

 

 現在の実務の立場では、BはAに対して、不法行為に基づく損害賠償なし、不当利得返還請求をするということになりますが、しかし、持ち分の処分は自由というのが、判例実務ですので、【事例1】(具体的相続分の範囲内で権利行使がされた場合)は不法行為にはならず、また、引き出しが法律上の原因を欠くことにはならないので、不当利得返還請求もできないのではないかということになります。【事例2】(具体的相続分を超える権利行使がされた場合)においても、持ち分の範囲内の処分については同様のことがいえます。何より、遺産分割で考慮されず、民事訴訟を提起しなくてはならないというのは、迂遠であり、Bにとっては負担です。

 

 以上のような不公平を是正するために今回の改正では、遺産分割前に、遺産に属する財産の処分が行われた時に、相続人間の公平を図るために、処分をした相続人を除いた共同相続人全員の同意があるときは、処分された財産も遺産分割時に存在するものとみなすことができる(遺産分割の対象とできる)とする規定が新設されました(改正法906条の2)。

 

3 改正法906条の2の要件と残された実務上の問題

⑴要件

 相続開始時に被相続人の遺産に属する財産が、遺産分割前に処分されたこと(処分された財産が遺産分割時に存在するとみなすことにつき)共同相続人全員の同意があること(ただし、共同相続人の一人または数人が財産を処分したときは、処分をした相続人の同意は不要)

 

⑵適用場面

ア 相続開始時、被相続人の遺産に属する財産があったこと

  遺産相続開始前の処分(いわゆる使途不明金問題を含む)については、本条の適用外です。

イ 処分

 本条の処分には、預貯金の払い戻しその他の債権の行使、動産、不動産の売却のほかに、共有持ち分の差し押さえと売却決定、遺産の棄損・滅失行為などが含まれるとされています。

 なお、909条の2で認められる預貯金の払い戻しは、本条の適用から除かれます。909条の2が適用されるときは、払い戻しされた預金は、確定的に処分者の取得となり、遺産分割の対象から外れます。但し、その場合であっても、全員の同意(処分者を含む)があれば、遺産の前渡しとして遺産分割の対象にすることは許されますし、遺産分割協議、調停、審判では、預金払い戻しの事実とその使途を斟酌したうえで、相続人間の不公平が生じないように具体的相続分を定めるようにすべきことは、本コラムのパート5を参照してください。

ウ 持ち分を超える処分について本条が適用されるか

 相続人が処分を行ったケースでは、自己の持ち分の範囲内での処分に限らず、持ち分を超えた処分についても本条の適用されると考えます。

 ただし、共同相続人の一人によってその共有持分を超える財産処分がされた場合には,その超過部分については,原則として無権限者による処分として権利移転の効力が生じないため(最判昭和38年2月22日民集17巻1号235頁参照),本条を適用するまでもなく,当然に遺産として存在することになるものと思われます。例外的に,即時取得(民法第192条)や準占有者に対する弁済(民法第478条)等によって共有持分を超える処分が有効となる場合があり得るため,そのような場合については、本条が適用されます。

 なお、前述のとおり、共同相続人の一人によって,他の共同相続人の同意なくして,自己の共有持分以上の財産処分が行われた場合については,他の共同相続人は,自己の(準)共有持分を侵害されたものとして,処分をした共同相続人に対し,不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるとするのが判例・実務の立場ですので、本条の適用は、自己の持ち分の範囲内で処分が行われた場合に限るとする考え方もありそうです。しかし、そうのように解すると、特別受益や寄与分がある場合などには,相続人間の実質的な公平を貫徹できないし、自己の持分を処分した場合には相続人間の公平を図り,他人の持分を処分した場合には相続人間の公平を図らなくても良いという実質的な理由も見当たらないことから,共同相続人の一人が自己の(暫定的な)持分を処分した場合のみならず,他の共同相続人の持分を処分した場合も含めて遺産分割の対象とできるように、本条の適用を認めるとするのが立法過程での議論です(法制審議会 第20回部会資料18頁以下)。

 

エ 遺産分割前にすべての遺産に属する財産が処分された場合

 では、共同相続人の一人によって,遺産の一部が処分されたのみならず,「遺産の全部」が処分された場合も本条は適用されると考えます。

 この場合には,遺産分割の時点では実際には分割すべき遺産がないことになるから,このような場合にも本条を適用してこれを遺産分割事件として処理することについては,(遺産)共有状態にある財産を分割するという遺産分割の性質を変えることにもつながり,もはや遺産分割とは言い難いという批判もありますが、一部の処分に遺産分割での清算を認め、全部の処分にはこれを認めないというのもおかしな話であり、清算がなされないとすると、相続人間の実施的な公平が図れませんので、本条の適用を認めるべきです。その場合は、実際には代償金の支払いが協議の対象になると思われます。

オ 動産・不動産等の処分の対価を現金で保管している場合

 処分の対価を、共同相続人が現金で保管している場合は、その現金は当然に遺産分割の対象に含まれることになり、本条の適用外であると考えます。

 

⑶改正法の実務上の意義

 これまでの実務においても、遺産分割前に一部の共同相続人により遺産が処分された場合、全員の同意があれば、処分された遺産を含めて遺産分割方法を定めることはできました。したがって、改正法の実質的意義は、処分した相続人の同意がなくても遺産分割協議の対象にできるという点に限られるということになりそうです。そうなると、本条が適用される場面は多くはないかもしれません。また、遺産分割前の預貯金債権の行使(払い戻し)が認められたことと本条との関連も必ずしも明確にはなっていません。今後の実務の運用に注意が必要といえるでしょう。

 

(続く)

弁護士活動コラム   2019年03月12日   admin

「相続法改正」パート5 【弁護士 大江 京子】

遺産分割前の預金の払い戻し(改正法909条の2)

 

1 改正の内容(909条の2)

相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割前にも、払い戻しが受けられるようになりました。

改正909条の2は、施行日(2019年7月1日)前に開始した相続であっても、施行日以降に払い戻しをする場合には、適用されます。

 

2 現行制度と改正理由

(1)平成28年12月19日最高裁大法廷判決前

預貯金債権は、可分債権であり相続開始と同時に当然に各相続人が相続分に応じて分割取得し、各相続人において単独行使することができるものであり、遺産分割の対象にはならないとされていました(最高裁判決昭和28年4月8日、同平成16年4月20日)。但し、家裁の実務では、相続人全員の合意があれば預貯金債権も遺産分割の対象にできるとして運用されていました。

(2)平成28年12月19日最高裁大法廷判決による判例変更

上記最高裁は、それまでの判例を変更し、預貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当であるとしました。

(3)改正理由

この判例変更により、預貯金債権については、遺産分割前に、各相続人は単独で行使(払い戻し)をすることができないことが判例上も確定しました。しかし、葬儀費用や生活費、相続債務の弁済などにあてるため、遺産分割が終了する前であっても、被相続人の預貯金の払い戻しを認める需要があることを考慮し、改正法では、例外的に、各相続人が単独で、預貯金債権の払い戻しをすることを認めました。

 

3 相続人が、単独で払い戻しのできる金額の上限

 改正法により、相続人が単独で払い戻しのできる預貯金の上限は、金融機関ごとに判断して、預貯金総額の3分の1に法定相続分を乗じた金額で、かつ、150万円を限度とします。

 例えば、A銀行に被相続人の預金が1200万円ある場合で、相続人が妻とこども2人(長男と次男)がいる場合は、長男が単独で払い戻しを受けることのできる金額は、以下の通り100万円になります。  

 1200万×1/3×1/4=100万円 < 150万

 A銀行以外の金融機関にも預金がある場合は、同様の計算により、上限額まで単独で払い戻しができます。

 

4 相続人が単独で払い戻しを受けたときの効果と実務上の問題点

 (1)一部分割とみなす

 遺産分割前に共同相続人が単独で預貯金の払い戻しを受けたときの効果について、改正法909条の2は、「当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」と規定しました。「一部の分割によりこれを取得したものとみなす」の意味ですが、共同相続人が払い戻しを受けた金額(例えば前述の例では100万円)は、確定的にその共同相続人が取得し、その金額は、後の遺産分割の対象には含まれないということです(一部分割については後述)。

 

 (2)特別受益と同じで不公平

 このように、単独で払い戻しを受けた預金は、後の遺産分割の対象には含まれない(遺産ではなくなる)とされましたが、一切考慮されないとすると、預金の払い戻しは、特別受益と同様一人の相続人が遺産の先渡しを受けた場合と実質的には同じですので、相続人間の公平を害することになります。

    先の例で、仮に、遺産が、A銀行の1200万円の預金だけだったとすると、長男が払い戻しを受けた100万円は、確定的に長男が取得し、遺産から外れます。

    残りの1100万円を、妻と長男次男で、法定相続分どおりに相続するとなると、

    妻が、1100万円×1/2=550万円

    長男と次男は、それぞれ1100万円×1/2×1/2=275万円

    長男は先に100万円を取得しているので、結局375万円を取得することになります。相続人全員が納得していれば別ですが、このままだと長男が取りすぎで不公平ということになります。

 

 (3)預金の払い戻しを受けて、相続債務の弁済にあてた場合

 では、先の例で、遺産はA銀行の預金1200万円だけで、相続債務が100万円あったとしましょう。長男が遺産分割前に、預金の払い戻しを受けて、その100万円のすべてを被相続人の債務の弁済にあてた場合を考えます。

    相続債務(被相続人が生前に負っていた債務)は、相続によって、当然に各相続人に法定相続分に応じて分割承継されるというのが判例の立場です(最高裁昭和34年6月19日判決)。

    妻が50万円、長男と次男は、それぞれ、25万円ずつ債務を承継することになります。

 上記の判例実務の立場からすると、仮に、相続人の一人が他の相続人の分も含めて相続債務を弁済したとしても、求償権の問題が発生するだけで、遺産分割調停や審判では考慮されないのが原則です。(相続人全員が同意していれば、相続債務についても遺産分割調停の対象とすることができます。)

 妻や次男が、相続債務について遺産分割協議の対象とすることに同意せず、求償(清算)にも応じないときは、長男は、別途、民事訴訟を起こさなければならず、迂遠であり、長男には気の毒な気がします。

 

 (4)預金の払い戻しを受けて、葬儀費用にあてた場合

 先の例で、長男が払い戻しを受けた100万円を全額葬儀費用に充てた場合はどうでしょうか。実際には、遺産分割前に払い戻しを受ける理由として、葬儀費用に充てたいという理由も多いと思います。

 しかし、葬儀費用については、相続債務にも当たらず、異論もありますが、喪主が負担すべき費用という説が実務上は有力なようです。いずれにしても、相続人の一人が預金の払い戻しを受けて葬儀費用にあてたとしても、相続人全員が同意しなければ、葬儀費用や香典について遺産分割協議の対象とすることはできません。 

 

 (5)特別受益を受けている相続人は預金の払い戻しを受けた場合

 では、長男が被相続人の父より、生前に生活費として300万円の贈与を受けていた場合(特別受益がある場合)は、どうでしょうか。

 この場合は、遺産の1200万円に生前贈与分の300万円を加えて相続財産とし(持ち戻し)て、各自の相続分を出し、その金額から特別受益の分を控除して、長男の具体的な相続分を出します。

 1200万円+300万円×1/4-300万円=75万円

 これが長男の具体的な相続分となります。

 そうすると、長男が遺産分割前にA銀行から100万円の払い戻しを受けて取得できるとなると、具体的な相続分を超えることとなり、この場合も、清算が必要となります。しかし、その清算は、原則として遺産分割調停や審判の対象外となり、(2)の例とは逆に、妻や次男が、長男に対して民事訴訟を提起しなくてならないことになります。

5 解決策

 遺産分割前の預金の払い戻しが単独で認められたことにより、上記のような問題が起きないようにするためにはどうしたらいいでしょうか。

 

 (1)最善の策は、いうまでもなく、相続人全員の同意のもとに払い戻しをするということになります。事前に同意を得られなくても、後に全員の納得のもとに遺産分割協議の中で公平に解決できれば何の問題もありません。むしろ、預金の事前払い戻しについては、遺産分割協議や遺産分割調停・審判においても、本来は、その使途をも含めて斟酌して、残余の遺産の分割が公平に行われることが必要であると考えます。

   改正法907条1項2項は、一部分割が認められることを明文で規定するとともに、但し、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでないとしています。遺産分割前の預金の払い戻しは、「遺産の一部の分割によりこれを取得したものでみなす」とされており、他の共同相続人の利益を害することが許されない(望ましくない)ことについては、同様であると言えます。

 

 (2)ただ、相続人全員の話し合いでの解決が期待できないような場合は、各人がそれぞれ上限まで単独で預金の払い戻しを受けるという防衛策を講じるしかないかもしれません。

 

 (3)また、一人の相続人が多額の生前贈与を受けるなどして具体的相続分が明らかにないような場合には、他の相続人は、処分禁止の仮処分決定(新家事事件手続き法200条2項)を受けて、その者が預金の払い戻しをすることを禁止する方策が考えられます。

 

 (4)さらに、遺産分割前に預金の払い戻しを受けて、相続債務の弁済や相続財産の管理費用に充てたり、葬儀費用に充てる場合に、これらの事情を確実に後の遺産分割協議や審判に反映させたいと考える時は、仮分割仮処分制度(新家事事件手続き法220条3項)を利用することが考えられます。この制度を利用して預金の払い戻しを受けた場合は、当該預貯金は、未だ未分割のものとして、遺産分割調停・審判の対象となりますので、当該預貯金の使途を斟酌して、分割方法を決めることが可能です。家事事件手続き法が改正されて、預金債権の仮分割処分制度の要件が緩和され、従来よりは利用しやすくなったと説明されています。ただ、預金の払い戻しを受けるために家庭裁判所に仮処分の申し立てをしなくてはなりませんので、手間がかかることは間違いありません。

 

(続く)

 

弁護士活動コラム   2019年02月28日   admin