いじめで退学? 【弁護士 仲里 歌織】

 いじめやその他トラブルを起こしたために、高校から退学処分(懲戒処分としての退学)を受けそうだ、という相談を受けることがあります。

 

 懲戒処分について、学校教育法・同施行規則は以下の規定を設けています。

 

 ◆学校教育法11条

 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。

 ◆学校教育法施行規則26条1項

 懲戒を加えるに当たっては、児童・生徒の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。

 

 懲戒処分については、処分権者に合理的な裁量が認められているものの、上述のように「教育上必要な配慮」が求められていることから制限されることになります(そもそも教育は、子どもの学習権に対応して行われるものですから(最高裁51年5月21日判決参照)、教育現場での懲戒権行使は子どもの成長発達に十分配慮されなければなりません)。

 懲戒処分の中でも重い処分である退学処分にあたっては、その性質上特に慎重な判断が必要とされます。修徳学園バイク退学処分事件(東京高裁平成4年3月19日判決参照)では、以下のとおり退学処分が限定されるべきであるとしています。

 

 ◆修徳学園バイク退学処分事件

 退学処分は、生徒の身分を剥奪する重大な措置であるから、当該生徒に改善の見込みがなく、これを学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って選択すべきものである。とくに、被処分者が年齢的に心身の発達のバランスを欠きがちで人格形成の途上にある高校生である場合には、退学処分の選択は十分な教育的配慮の下に慎重になされることが要求されるというべきである。

 

 このように、いじめ等、懲戒事由が存在するだけで直ちに退学処分が許されるものではなく、退学処分は、教育的な指導を尽くしても改善の見込みがなく、学外に排除することがやむを得ないという限定された場合に、十分な教育的配慮の下に慎重になされなければならない性質のものなのです。

 ところが、実際には性急に退学処分にしてしまい、のちに裁判で争われて退学処分が違法だったと裁判所から指摘を受ける事態があるのも事実です。

 ただ、裁判所で「違法」と判断されるまでには時間がかかってしまいますし(子どもの学習権の観点から違法とすべき事案でも残念ながら裁量権の範囲内である旨判断してしまう裁判例があるのも事実です。そのため、裁判所で「違法」と認めてもらうことも大きなハードルです)、高校生という成長発達において重要な時期に学びの機会が奪われてしまうというのは、子どもの成長発達権・学習権の観点から重大な問題であり、裁判所で「違法」と判断されたからといって解決できる問題ではありません。

 そのため、教育に携わる先生方におかれては、慎重に慎重を重ねて教育的な働きかけを尽くしていただきたいと思いますし、退学になるかもしれないという当事者の方におかれては、処分を受けてしまう前に弁護士に相談されることをお勧めします。