法律事務所と公証役場 【弁護士 山添 健之】

 皆様は、「公証役場」という機関をご存じでしょうか。公証役場は、「公証人法」という法律にもとづき、全国に約300カ所設置されている公的機関であり、「公証人」という法律の専門知識を有している方々(多くは裁判官、検察官を退官された方)が業務を行っています。都内には45もの公証役場がありますから、身近にある存在といえるでしょう。

 

 公証役場では様々な業務を行っており、その詳細は日本公証人連合会のウェブページ(http://www.koshonin.gr.jp)をご覧頂きたいのですが、私たち弁護士が公証役場にお世話になる場面として、「公正証書遺言の作成」と「契約に関する公正証書の作成」をあげることができます。

 

 公正証書遺言とは、遺言書を、公証人が作成する「公正証書」の形で作成したものです。遺言書の形式は民法で定められており、通常よく作成されるものとしては、遺言者が自筆で作成する「自筆証書遺言」と、公証役場で作成する「公正証書遺言」があります。

 

 「自筆証書遺言」は、遺言書の全文を遺言者が自筆で書く必要があり(パソコン、ワープロ等で作ることはできません)、文字の訂正・追加等にも厳格なルールがあります。これらのルールを満たさないと、意味の通じる内容であったとしても、その全体が無効になってしまいます。また、自筆証書遺言は、遺言者が亡くなったあと、家庭裁判所において「検認」という遺言書のチェックを受ける手続をとらなければなりません。そして、遺言者が亡くなったあと、相続人の間で、「この遺言書はお父さんが自分で書いたものじゃない!」とか、「兄弟が無理やり書かせたものだ!」といった、紛争が生じる可能性もあります。

 

 このような手間や紛争をできるだけ避けるため、弁護士が関与して作成する遺言書は「公正証書遺言」の形で作成することがほとんどです。「公正証書遺言」を作成するには、遺言者と、証人二人(相続人が証人となることはできません)が公証役場におもむいたうえで、希望する遺言の内容を公証人に伝えると、公証人が「公正証書遺言」を作成してくれます。

 

 「公正証書遺言」は、遺言者が亡くなったあと、「検認」の手続を経る必要はなく、また、「遺言者の自筆ではない」という理由で無効となることはありません。また、作成時に公証人が遺言者の意思を確認することになっていますので、「遺言者の真意ではない」という争いも生じにくいといえます。加えて、遺言書の原本は公証役場に保管されて、基本的に全国の公証役場から検索ができるシステムが整えられているそうですから、遺言書の紛失等を防ぐこともできます。

 

 もうひとつ、私たちが公証役場にお世話になる場面として、契約書を公正証書の形で作る場面があります。例えば、お金の貸し借りの場面を例にとると、多くの方は「借用書」であったり、「金銭消費貸借契約書」を作成するでしょう。これらの書類は、「お金を貸した」ことや、「いつまでに、どのような方法で(一括か分割か)返済するかを約束した」ことを証明する効果はありますが、逆にいうとそれ以上の効果があるものではありません。仮に、約束通りに返してもらえなかった場合、話し合いで返してもらえればいいのですが、話し合いが成立しなければ、裁判を起こして勝訴判決を得たうえで、強制執行(差押え)の手続をとらない限り、「強制的に返してもらう」ことはできないのです。

 

 そこで抜群の効果を発揮するのが、「契約に関する公正証書」です。お金の貸し借りの場面で言えば、金銭消費貸借契約書を公正証書の形で作成すると、仮に約束通りに返してもらえなかった場合、裁判を起こして勝訴判決を得なくとも、公正証書にもとづき、強制執行(差押え)の手続をとることが可能なのです(ただし、公正証書作成時に、借主が、もし返せなかったときは強制執行されてもいいですという同意をする必要があります)。これは、強制執行(差押え)のルールを定めている「民事執行法」が、「契約に関する公正証書」について、特別の効力(法律用語で「債務名義」といいます。)を認めているからです。

 

 このように、公証役場は、公正証書等の作成を通じて、紛争を未然に防ぎ、また仮に生じてしまった紛争であっても迅速に解決をするために重要な役割を果たしているのです。

 当事務所の所在する国宝ビルは、大変ありがたいことに、一つ下の5階のフロアに「錦糸町公証役場」が所在しており、当事務所でのお打ち合わせのあと、錦糸町公証役場に移動をして公正証書を作成するということも簡単にできますので、遺言書や契約書を公正証書で作成したいという方は、ぜひお気軽にご相談ください。