遺言書による保険金受取人の変更 【弁護士 城﨑 雅彦】

 京都の向日市での連続不審死事件が連日様々な憶測をまじえながら報道され,世間の注目を集めています。先日,殺人罪で起訴され,事実の認定は裁判員による裁判にゆだねられることとなりましたが,この事件報道のなかで頻繁に登場したのが『公正証書による遺言』です。起訴された被告人は,何通もの公正証書遺言を書かせ,これによって,数億円に上る遺産を取得していたというのです。

 

 ところで,この遺言書によって,保険金の受取人を変更することができるかという問題があります。

遺言者が自分で,自分にかけている生命保険(遺言者が「保険契約者」であり,かつ,「被保険者」であるという場合です。)について,その死亡保険金の受取人を契約時においては妻であるA子さんとしていましたが,今回,現在同居して自分の面倒を見てくれている長女のB子に変更したいが,遺言書で,この変更ができるのかという問題です。

 

 生命保険金の受取人変更手続は,通常,保険契約者が保険会社に所定の書類を提出することによってなされますが,この場合は,保険証券上の受取人の記載も妻のA子さんから長女のB子さんと変更されますので,保険金の支払手続も,スムーズにおこなわれます。

 しかし,遺言書による場合は,事前に保険会社に通知されることはありませんから,保険証券上の表示も従来の受取人のままになっていますので,問題がありそうです。

 

 この「遺言書による保険金受取人の変更」について,従前の保険約款では規定がなく,保険会社によって,様々な扱いがなされてきたようですが,商法の改正に伴い,平成22年4月1日に新しく「保険法」が施行されたことによって,遺言書による保険金受取人の変更が明確にできるようになりました。

 保険法第44条

① 保険金受取人の変更は,遺言によっても,することができる。

② 遺言による保険金受取人の変更は,その遺言が効力が生じた後,保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ,これをもって保険者に対抗することができない。

 保険法第44条第2項にあるとおり,遺言書を保管していたり,遺品の中から遺言書を発見し,遺言書のなかに,保険金受取人変更の記載があれば,すぐに,保険会社に,その旨通知をしなければなりません。万が一,通知がないまま,保険会社から従前の受取人に保険金が支払われてしまうと,遺言書で新たに受取人と指定されていても,保険会社から保険金を受け取ることができなくなります。

 

 保険法によって,遺言書による保険金受取人の変更が明確に認められるようになったと言っても,このやり方は,様々な二次的紛争を引き起こしそうです。保険証券に受取人として表示されたままであれば,保険金を受け取れることを期待していることになりますし,その後に発見された遺言書によって,これが受け取れなくなったり,遺言の存在を知らずに保険金を受領した後に,あとから返還を求められたりすれば,大変な混乱を招くことになります。

 受取人の変更が必要であれば,遺言ではなく,生前に保険会社に連絡し,受取人変更手続を取っておくべきです。