首都圏建設アスベスト訴訟・東京地裁判決の報告 【弁護士 伊藤 真樹子】

 首都圏建設アスベスト訴訟は、石綿含有建材を取り扱う過程で大量の石綿粉じんに曝露した結果、石綿肺・肺ガン・中皮腫等の重篤な石綿関連疾患に罹患した患者388名が統一原告団を結成し、被告である国と石綿含有建材製造メーカー42社に対して損害賠償を求め、東京地裁と横浜地裁に提訴した訴訟です。

 2012年12月5日、東京地方裁判所民事第41部は、この訴訟において、国の責任を認め、原告308名のうち158名に対し総額10億6394万円の損害賠償を支払うよう命じる原告勝訴の判決を言い渡しました。本判決は、原告らの請求を全面棄却した横浜地裁の不当判決(2012年5月25日)を乗り越え、建設アスベスト被害について、その責任が国にあることを裁判所が初めて認定した画期的なものです。

 具体的には、石綿輸入量の飛躍的増加、吹付石綿の施工量の増大、電動工具の普及などによって、昭和40年代から、建築作業従事者は、建築現場において石綿粉じん曝露の危険にさらされ続け、昭和50年代、昭和60年代、さらには平成4年以降であっても、その危険性はなお高かったこと、重層的下請け構造のもと建築作業従事者の労働安全衛生の確保がゼネコン等によって自主的に講じられるとは期待し難かったことなど、我が国の建築現場の実態を正確に捉えたうえ、「建築現場における建築作業従事者の石綿粉じん曝露を防止するためには、被告国による規制権限の行使の必要性が特に高かった」、それに対して国が講じてきた規制措置は「石綿粉じん曝露防止のために現実的かつ効果的なものであったということができず、建築現場において生じる石綿粉じん曝露対策として不十分なものであったといわざるを得ない」と認定しました。

 そのうえで、医学的知見の確立時期(石綿による肺がん・中皮腫発症の危険については1972年)、建築現場における石綿粉じん曝露の危険性に関する国の認識ないし認識可能性、省令改正の検討期間などを検討したうえ、国は、1981年1月時点(石綿吹付作業については1974年1月時点)で省令を改正し、事業者に対して、労働者が石綿建材の切断等の作業をする際には防じんマスク着用を実効的なものとすべく、石綿粉じんが肺ガンや中皮腫などの重篤な疾患を生じさせるものであることを明示したうえで石綿粉じん発生作業を行う際には必ず防じんマスクを着用するように警告することを義務付けることなどの規制を行うべきであったのに、これを怠ったことは著しく不合理で違法であると断じました。

 一方で、この東京地裁判決は多くの問題点を抱えています。判決は、建設業界の重層下請構造により元請による労働安全衛生管理が不徹底となりがちな一人親方や零細事業主が多い実態を認定しているにも関わらず、1981年時点で「労働者」であった原告のみ救済し、いわゆる「一人親方」や零細事業主であった原告135名については労働関係法令の保護対象外としました。さらに、建築基準法に基づく規制権限不行使の違法も認めず、一律に請求を棄却しました。

 また、国とともに建築現場に深刻なアスベスト被害を生じさせたアスベスト建材製造企業の責任について、危険なアスベスト建材を製造・販売する企業として負う警告義務違反(過失)があったことを認め、「企業が、被害者である建築作業従事者に対して何ら責任を負わなくてもよいのかという点については疑問があるといわざるを得ない」とまで判示したにも関わらず、最終的に共同不法行為の成立を否定して被告企業を免責しました。

 このように、本判決は極めて不当なものとして問題点を抱えるものの、建築現場に悲惨なアスベスト被害をもたらした国の責任を厳しく断罪しており、アスベスト被害根絶に向けた闘いにおいて重要な意義をもつものです。

 今後は、控訴審において判決の誤りを正すとともに、判決の積極的側面は最大限に活かしながら、法廷内外での闘いを強化していきます。今後とも、ご支援・ご協力をどうぞよろしくお願い致します。