公務公共一般労組のたたかい 【弁護士 後藤 寬】

 

都立職業能力開発センター非常勤講師解雇事件

―公務公共一般労組のたたかい―

 

公務員労働者も非正規化が急速に進められ,公務員の人権や公務サービスを受ける国民の権利が危機にさらされるなか,東京都の非常勤職員で構成する東京公務公共一般労働組合のたたかいをご紹介いたします。

 

1 事件発生

 都立職業能力開発センターは,東京都が設置運営するもので,若年者だけではなく離職した中高年も対象に,電気関係や・情報・ファッションなど,幅広い分野で職業訓練を実施しています。また,障害者も対象とした科目も設置し,広く国民の勤労の権利を保障するためにもきわめて重要な役割を担っている公共機関です。

 そこで,訓練生に対し指導教育を行う講師には当然高度な知識経験が求められるわけですが,そうした講師は1年ごとに雇用される非常勤職員によって担われています。そのなかのCAD製図科(コンピューターによる製図)があり,毎年高い就職率を誇り,多数が応募する人気科目の一つです。

 ところが,東京都は2014年10月,突如として2015年4月以降CAD製図科の民間委託,あわせて31名の講師に対し,CAD製図科での再任用はないことを通告してきました。もともと,職業能力開発センターは,都民に就労するための知識技術を保障する公共性の高い機関であり,営利を目的とする民間会社でその役割を果たせるのか疑問があるところ,CAD製図科を民間委託する合理的理由はありません(実際,民間委託後,民営化の目的で必ず挙げられる経費削減は実現せず,就職率は下がっています。)。

 CAD製図科には,6名の組合員が在籍しており、非常勤職員の権利を守るため先頭に立って闘ってきた実績があり,CAD製図科の組合員を職場から排除し,組合活動を阻害することこそ,民間委託の真のねらいであることは明白です。

 組合は,職場復帰を希望する3名を職場に戻し,組合攻撃をやめるよう東京地裁と労働委員会に対し,訴訟提起ないし救済申立をしました。

 

2 まともな認否反論ができない東京都

 組合が主張するのは,(1)講師と東京都との関係は,実質的には労働契約であり,長年にわたる更新を考慮すると合理的理由のない解雇(更新拒絶)は許されない。(2)民間委託に合理的理由はなく,組合を敵視し,組合員を職場から排除する不当労働行為である,ということです。

 これに対し,東京都は(1)非常勤講師は毎年1年ごとに知事が専権事項として任用するもので両者の合意による労働契約のような概念を入れる余地はなく,翌年の任用を期待する権利はない。(2)民間委託は他の科目でも行われているもので合理的理由がある,委員長である中嶋さんはともかく他に組合員が在籍していたこと自体東京都は把握しておらず組合を排除する意図はなかった,等と反論しています。

 しかし,(1)東京都がいう任用論は,公務員は国や自治体の公法上の「任用行為」という行政処分により公務員となるという考え方ですが,学説上は過去の議論として克服されたものです。実際,非常勤講師の更新についても,組合が団体交渉により東京都の更新拒絶を撤回させるなど,労使双方の合意により,非常勤講師の更新を含めた労働条件を取り決めてきました。組合は,20年以上にわたり,非常勤講師の更新や労働条件を団体交渉で解決した具体例を挙げて,非常勤講師と東京都の関係が民間の労働契約と実質的に変わりないことを主張していますが,東京都は終始,任用論という抽象的主張を繰り返すだけで,組合との団体交渉の経過についてはその認否(事実としてあったのかなかったのか応答すること)すら拒否しています。

 また,(2)についても,前述のとおり,民間委託により経費は削減できない一方で,就職率は悪化し,応募者も激減するという民間委託が制度改悪だったことが明らかになっています。他方で非組合員が他の科目での「任用」がなされているのに対し,組合員は「任用」を拒絶されるなど,組合排除の意図は明らかになっています。

 

3 「任用論」の克服へ

 以上,述べたとおり,東京都は,戦前に唱えられた公務員は,労働契約ではなく,「任用」とする「任用論」に固執しています。前述のとおり,任用論はすでに過去の考え方として克服されたものですが,最近の裁判例をみても,裁判所はいまだ任用論に基づいた考え方をとっています。組合弁護団では,学者に依頼し,「任用論」の不当性について意見書を作成していただき裁判所や労働委員会に提出しました。また,職業訓練が国民の勤労の権利を保障するものとして,きわめて公共性が高いものであること,民間委託自体が不当なものであることについても,学者の意見書を提出しました。裁判所も労働委員会も,本年5月に証人尋問手続が終了し、公務員の非正規化の流れを阻止するため,全力で取り組む決意です。

 今後とも,ご支援をお願いいたします。