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遺言書の破棄 【弁護士 中西 一裕】

1 遺言の要式性

 高齢化社会の進展により、遺産相続や遺言に関するご相談が増えています。

 遺言書の作成には法的に方式が厳格に決められていて方式違反の遺言は無効となることは、多くの方がご存じでしょう。

 弁護士に遺言書作成を依頼される場合は公正証書遺言の方式をお勧めすることが多く、その場合は方式違反が問題となることはまずありませんが、問題となるのは自筆証書遺言です。

 民法968条1項は、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と規定しており、一見簡単そうに見えますが、ミスをする人が少なくありません。しかも、ミスが判明するのは遺言者の死後で、訂正することができずに無効となる場合が多いのです。

 例えば、どんな長文の遺言でも全文自筆でなければならないから、パソコンでプリントアウトして署名押印したものは無効となります。また、手書きでも本人の筆跡かどうか争われる場合もあります。

 作成日付、氏名、押印はすべて必要で、どれかが欠ければ無効となります。

 

2 遺言の撤回、書き換え

 では、遺言を取り消すあるいは別の内容に書き換えるにはどうすればよいか。

 民法は、「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」(1022条)、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。」(1023条1項)と定めています。

 前者が遺言の撤回で、後者が遺言の書き換えであり、どちらも遺言の方式による必要があります。ただし、撤回または書き換える前の遺言と同じ方式である必要はありません。例えば、公正証書による遺言を自筆証書で撤回することも可能です。

 

3 遺言書の破棄 -最近の判例から

 ところで、このような遺言の方式による撤回や書き換えの他に、事実行為による撤回も民法は認めています。1つは遺言内容と抵触する「遺言後の生前処分その他の法律行為」がなされた場合(1023条2項)で、もう一つは「遺言者が故意に遺言書を破棄したとき」や遺贈の目的物を破棄したときです(民法1024条)。

 最近の判例を紹介すると、遺言者の死後、金庫内から封書に入った遺言書が発見され、家庭裁判所で検認手続きを行ったところ、遺言書本体は自筆証書遺言の方式に従っていたものの、文面全体に左上から右下に赤のボールペンで斜線が引かれていたという事案で、遺言書の効力が問題となりました。金庫内にあったことから、斜線を引いたのは遺言者本人であると事実認定がなされています。

 これについて原審の高裁では、斜線が引かれていても遺言書の文字が判読できるとして、「故意に遺言を破棄した」とは認められないとしました。

 意外なようですが、実はこれは通説的な見解をふまえたもので、「破棄」とは遺言書の焼き捨て、切断などの有形的な破壊のほか、内容を識別できない程度に抹消することをいうという考えに基づくものです。斜線や2本線で抹消してあるのは「加除その他の変更」(民法968条2項)であり、遺言者による該当箇所の指示と署名・押印といった方式をふまえなければ抹消は無効というわけです。

 しかし、最高裁判決(平成27年11月20日 判時2285号52頁)は原審を破棄し、遺言書の破棄による撤回を認めました。その理由は、遺言書の一部でなく文面全体に赤色のボールペンで斜線を引く行為は、「一般的な意味に照らして」、遺言書全体を不要のものとして効力を失わせる意思の表れとみられるというものです。一般常識に沿った判断であろうと私も思います。

 このように遺言書の「破棄」といっても、要式行為である「変更」と区別がつきにくいことがあるので要注意です。

 なお、公正証書遺言の場合は公証役場に原本があるため、本人が手元にある遺言書正本を破棄しても撤回の効果は認められないと解されています。

 

4 方式緩和の可能性?

 現在、法制審で検討されている「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」では、自筆証書遺言の方式緩和も議論されています。

 例えば、

 ・遺産を特定する部分(遺産目録等)はワープロ打ちでも可能

 ・遺言書の加除訂正は変更箇所の署名のみで押印は不要

といったものです。

 他にも相続法制全体の改正が検討されており、これが実現されれば現在の実務が大きく変わることになりますが、実現されるかどうかはまだ紆余曲折が予想されます。

弁護士活動コラム   2017年03月03日   admin